2015 Fiscal Year Research-status Report
環境応答型ハイドロゲルを利用した細胞を基材とするバイオマテリアルの創製
Project/Area Number |
15K14238
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
神谷 典穂 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50302766)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バイオテクノロジー / 生物・生体工学 / 生体材料 / ハイドロゲル / 細胞培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、基礎科学からバイオテクノロジー分野まで幅広く利用されている基盤材料であるハイドロゲルを細胞培養基材として活用することで、細胞を主要構成要素とする自立的なバイオマテリアルを創出することを目標として研究を推進した。具体的には、酸化剤を必要としない新たな手法により得られる酸化還元応答型ハイドロゲルを用いた動物細胞の培養により、生細胞からなる球状細胞凝集体(スフェロイド)とシート状細胞凝集体(細胞シート)の作り分けを試みた。前者について、ヒト肝癌由来HepG2細胞株を用いたハイドロゲル内包括培養を検討し、肝臓の基本性能を有するスフェロイドの形成に成功した。後者については、接着細胞であるL929繊維芽細胞のハイドロゲル上での培養に際し、ゲルの組成を適宜調整することで、細胞シートの形成が可能なことを確認した。さらに、次年度の検討に向けて、多様な増殖因子をハイドロゲル中に補足するための組換えタンパク質の調製と、市販の昆虫細胞を用いた培養実験を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ハイドロゲル中での包括培養による球状細胞凝集体の形成 ヒト肝癌由来HepG2細胞株を用いた包括培養実験から研究を開始した。ゲルを構成する3成分(架橋用酵素、チオール化PEG (PEG-SH)、フェノール性小分子基質)とHepG2細胞懸濁液を混合し、30分程度静置することで細胞包括ゲルを得た後、培地交換をしながら細胞培養を継続し、スフェロイドの形成を確認した。その後、還元剤を含む水溶液を添加してゲルを崩壊させ、スフェロイドを回収し、生理機能を評価したところ、単層培養系と比べて著しく細胞機能が向上することを確認できた。上記の研究を実施した修士学生が学会にて優秀ポスター賞を受賞した。 2.ハイドロゲル上での接着培養によるシート状細胞凝集体の形成 PEG系ハイドロゲルによる接着細胞の培養に際し、細胞の足掛かりとなる部位をゲルネットワークに導入した基材を設計した。コラーゲン由来ゼラチン、絹タンパク質由来セリシン成分が導入されたハイブリッド型酸化還元応答ハイドロゲルを調製し、L929繊維芽細胞を培養したところ、共にシート状の細胞凝集体を得ることができた。また、複数のチロシン残基を有するセリシンは、酵素触媒的ゲル化反応に必須のフェノール性小分子基質を代替可能なことを新たに見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
昆虫の外皮形成機構を範とする昆虫外皮構造模倣細胞シートの創出に向け、シート状細胞凝集体形成条件の最適化を行う。まず、これまで利用してきた植物由来ペルオキシダーゼに代わる新たな昆虫由来酸化酵素を探索し、ハイドロゲル化条件を確立すると共に、動物細胞ならびに昆虫細胞の包括あるいは接着培養を試みる。後者については、連携研究者との恊働により、蚕由来培養細胞を用いた細胞シートの構築の可能性を検証する。また、細胞培養に必要とされる様々なタンパク質成分を包括固定化することが可能なハイドロゲル基材を設計し、当研究グループ独自の酸化還元応答型ハイドロゲルのさらなる機能化を試み、クチクラ様構造体の形成に挑戦する。
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