2015 Fiscal Year Research-status Report
電磁力を利用した分離装置でのバラスト水無害化への挑戦
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15K14265
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
赤澤 輝彦 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (30346291)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ローレンツ体積力 / 海水・油分離装置 / バラスト水 |
Outline of Annual Research Achievements |
高速度カメラを付けた顕微鏡システムを導入することにより分離装置内の電極板表面から電気分解に伴い発生する気泡の光学観測を行った.分離装置内で乱流を引き起こし,分離性能を下げている要因の一つである水素気泡は,電極板表面で発生し,電極板に付着した状態で上に移動しながら徐々に大きくなり,100μm程度の大きさになったとき電極板から離れることがわかった.このため海水中を浮遊する水素気泡の大きさが,ほぼ100μm程度の直径で均一であることが明らかになった. 電極板より発生する水素気泡のサイズが明らかとなったため,電極板付近にメッシュの仕切りを設け分離装置本流へ水素気泡が混入しないようにした分離セルを作成した.このセルを用いて通電実験を行い,本流への気泡混入の抑制の可否を確認した.開口間隔100μm以下のナイロンメッシュを用いることで水素気泡が本流へ流れ込まないことが確認できた.ただし,陽極で発生する次亜塩素酸のために,陽極に用いるナイロンメッシュが溶解することがわかり,現在分離セルに取り付けるメッシュの材質について検討中である.また,メッシュを電極付近に導入することにより,電極付近のイオン濃度分布は,メッシュがない時に比べ大きく異なることが,電極間電圧の測定から示唆された.このイオン分布の測定には,局所的なpH測定が必要となり,現在,分離セル内の局所的なpH計測ができるように分離セルの再設計を行っている. 生物実験用に保温や温度管理可能な試験プラントを作成していたが,この分離装置で観測されるローレンツ体積力による海水の偏り現象と数値計算シミュレーションの間に大きな乖離が見られた.数値計算実験を用いて考察を行った結果,この原因が試験プラントの出口形状にあることがほぼ特定できた.このため,出口形状を大きく変更する必要があり,分離試験装置全体の設計を再検討している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
27年10月下旬に申請者は自転車で歩道を徐行中に横から自動車に突っ込まれるという交通事故に巻き込まれた.この事故及び後遺症のため,事故後数か月間,実験装置の組み立て作業ができなかった.これが,当初の計画よりも実験の実施が遅れた主因となっている.現在は,研究室の学生の研究サポート体制が向上したため,実験装置の組み立て作業は問題なく実施できるようになってきている.交通事故により生じた遅れは28年度中に回復できると考えている. また,研究実績に記述したように,当初計画していた試験プラントでは,数値計算実験と実際の分離実験の比較を行うことが難しいことがわかった.数値計算により原因はほぼ特定できているが,現在の改良プランが解決方法として良いかどうかのチェックも必要であり,当初の見込みよりも試験プラントの設計・製作に時間が必要となることがわかった.
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Strategy for Future Research Activity |
27年度明らかになった分離装置や分離プラントの問題点を解決し,当初の研究スケジュールであるアルテミアの卵の分離特性を明らかにすることが28年度の研究実施計画である. ローレンツ体積力による海水の偏り現象が,数値計算実験と実際の分離装置で大きく異なっている問題が起きていた.平成27年度に数値シミュレーションを用いた分離セル内部の海水流れの解析を行った結果,海水出口の流路形状に問題があることが明らかとなった.この問題を解決するため,分離セル後方の流路形状を大きく変更する.この変更により,数値計算実験と実際の実験との比較が容易になるものと考えられる.さらに28年度は,分離装置全体の最適な流路形状についても,27年度同様の手法を用いて,数値計算モデルから明らかにしたいと考えている. また,分離セル本体の改良では,メッシュによる電極板表面からの発生する気泡の除去を念頭に,分離装置内でのメッシュ仕切り板の最適配置について,分離装置を用いた実験および数値シミュレーション実験の両面から探る予定である.また,イオン濃度分布による通電特性の変化についても局所的なpH測定から観測し,電極板付近のイオン濃度分布が偏らないように海水流れを制御することを検討する. 以上の分離プラントおよび分離セルの改良が終わった後に,研究当初の予定通りアルテミアの休眠卵から孵化寸前の卵までを用いて分離実験を行い,どのような卵が分離装置で分離可能かについて,磁場,電流,流速を変化させ検証を行う予定である.孵化に必要な保育器や,追加の電源装置等を購入する予定である.
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Causes of Carryover |
残金は,分離装置本流に水素気泡が混入しないようにするメッシュ仕切り板を作製するための予算である.不慮の交通事故のため研究に数か月程度遅れた.このため気泡分離に用いるメッシュ材料の最適な材質選定が年度内に完了しなかった.このため経費を27年度中に執行できなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
メッシュ材質の選定には,分離セル内の局所的なpHを測定し,イオン濃度分布が分離装置内でどのようになっているかを考察する必要がある.現在,この観測を行うための実験装置の作製を行っており,イオン濃度に関する知見が得られれば,最適なメッシュ素材が決まり,メッシュ仕切り板の作製に取りかかれる.この作業において特に大きな問題は今のところなく,予算執行に問題はないと考えている.
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