2015 Fiscal Year Research-status Report
亀裂性岩盤を通過する地下水中のセシウムの移行挙動の解明
Project/Area Number |
15K14277
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
竹内 真司 日本大学, 文理学部, 准教授 (90421677)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 武司 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (60431805)
藪崎 志穂 福島大学, 共生システム理工学類, その他 (60447232)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 福島第一原子力発電所事故 / 放射性セシウム / 物質移行 / 亀裂性岩盤 / 地球化学性状 / 地下水年代 / 地下水流動 / 被ばく線量評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東京電力福島第一原子力発電所(以下、1F)事故によって放出された主要な核種である放射性セシウムが、生活圏へ与える長期的な影響を予測する手法を開発することを目的としている。1F事故によって放出された放射性物質が比較的高い濃度で降下した阿武隈山地周辺には、亀裂の多い花崗岩類が基盤岩として広く分布している。降下した放射性物質の多くは表層土壌に吸着されるが、花崗岩類が地表に露出、あるいは表層の土壌層が薄い箇所では、放射性物質は地下水とともに亀裂を通して下流域に移行することが考えられる。下流域の湧水や井戸水を利用している住民にとっては、地下水中の放射性セシウムの有無や濃度は、今後の帰還の判断材料として重要な情報である。既往研究では、放出された放射性物質の表層土壌への吸着メカニズム等に関する報告が多く、花崗岩類中に移行した放射性物質の挙動に関する事例は皆無である。そこで本研究では、亀裂性岩盤中での放射性セシウムの移行特性を明らかにするための調査を実施した。 平成27年度には、福島県の阿武隈山地を含む浜通り地域を中心に、既存資料の収集や、湧水の分布や地球化学性状の調査等を実施し、岩盤からの地下水を採取可能な領域として、南相馬市内のある地区を調査対象領域に設定した。当該領域において、概略の地質調査、岩盤中からの湧水や井戸水、表流水などの地球化学性状を把握するとともに、一部の地下水についてセシウム濃度の分析と年代測定を実施した。また、数値モデルを用いた地下水流動解析を実施した。地球化学性状から、比較的滞留時間が長いと考えられる地下水の存在が示され、地下水年代結果においても数年~数百年と様々な時間スケールの地下水の存在を示す結果が得られた。また地下水流動解析による滞留年代は、地下水年代と大きく矛盾しない結果となった。一方、一部の浅井戸では、セシウムが極めて低いレベルで検出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、調査地域の選定、現地調査および採取試料の分析、地下水流動解析を実施した。現地調査では、地質概査や、断層帯中の湧水や井戸水、河川水等の表流水などを採取した。採取した水試料は、全てについて地球化学性状(主要溶存成分組成やSiO2濃度、酸素・水素安定同位体比等)を把握し、地下水試料の一部についてセシウム濃度の分析や年代測定を実施した。また、地下水流動解析は、地下水の涵養域と考えられる阿武隈山地から流出域である太平洋沿岸域までを対象領域とした。 現地調査の結果、西側から東側に向けて、花崗岩類、花崗岩類の変形・変質を伴う断層帯、堆積岩類が分布することが確認された。また地球化学性状から、花崗岩類と堆積岩類の境界に位置する断層帯からの湧水などは、移行時間が比較的長いことを示唆する一方で、堆積岩類の分布域に位置する浅井戸の水は、滞留時間が短いことが示唆された。地下水年代測定に関しては、深度約45mの深井戸(自噴井戸)の地下水を対象に、異なる手法(Tr、フロン類・代替フロン、14C)を用いて実施した。その結果、14C年代法では約300年の値を示したのに対して、その他の手法では25~30年の値を示した。これは、地下水流動場の人工的な改変により,深井戸に新旧の地下水が流入していることを示唆するものと考えられる。さらに、14C年代法の結果、上述の断層帯からの湧水は約700年の値を示した。地下水中の放射性セシウムは、深井戸では確認されなかったが、一部の浅井戸では、極めて低いレベルで検出された。地下水流動解析の結果、断層の透水性によって地下水の移行時間が大きく異なる結果が得られ、透水性を高く設定した場合には、断層からの湧水の年代推定値と大きく矛盾しない結果となった。 平成27年度の成果の一部は日本地下水学会2015年秋季講演会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の調査により、福島県浜通り地域には、採石・採土を目的とした開削が行われた、あるいは行われている地域や、表層土壌の層厚がごく薄い地域が点在することが確認された。調査対象領域の堆積岩類分布域においても,大規模な開削が行われている。地球化学性状の調査結果から、この開削が地下水の流動機構や水質組成に影響していると考えられたことから、今年度は開削領域周辺の地下水調査等を実施していく予定である。また、調査対象領域における地下水涵養域である阿武隈山地では、基盤花崗岩が地表に露出している地点が比較的広い範囲で存在する。この領域は1F事故によって比較的高濃度の放射性物質が降下した地域であることから、この地域から地下水とともに涵養された放射性セシウムが下流域の湧水地点や井戸に達した場合には、地下水の汚染が生じることが考えられる。このため、地下水涵養域周辺での花崗岩類の亀裂調査や線量測定などが必要不可欠である。地下水流動解析に関しては、平成27年度の概略の解析結果を踏まえ、より詳細な地形のモデルへの組み込みや、これまで明らかとなっていないこの領域での岩盤の透水性等に関する情報を取得するため、文献調査や現地調査を可能な限り継続する。さらに、地下水の地球化学性状や年代、セシウム濃度等については、測定地点を増やすことで、この領域の水質形成プロセスや地下水流動の状況をさらに詳細に明らかにしていく。なお、当初に計画し、平成27年度に実施に至らなかった室内での物質移行試験と水-岩石反応解析については、現地データの蓄積の度合いに応じて適宜実施していく予定である。 今後、蓄積される情報や地下水流動等に関する解析結果を基に、放射性セシウムの移行解析を行い、下流域の湧水地点や井戸における被ばく線量の評価を行う予定である。
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Research Products
(2 results)