2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K14331
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
鈴木 惠雅 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 研究員 (70723675)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / カルシウムイメージング / 単離培養脳 / 報酬学習 / 吻伸展ニューロン / バーチャル報酬記憶の形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンパクトで光透過性が高いショウジョウバエの脳は、全脳レベルでのイメージング解析が可能である。記憶が形成される過程を全脳レベルで網羅的な解析が出来れば、神経間、脳領域間での繋がりを明瞭にし、脳高次機能を担う神経ネットワークの全容と活性動態を見出すことが出来る。 ショウジョウバエに匂いAと砂糖水を同時に与えると、その後匂いAに近づく行動を示すようになる。この匂いと砂糖水の報酬関係を学ぶことを報酬学習といい、報酬記憶を獲得する。学習中の脳内の変化をリアルタイムで調べるため顕微鏡下にショウジョウバエを固定すると、アプローチ行動(学習成立の指標)を検出できない為、観察された可塑的変化が真に記憶痕跡か否かを判断することが難しい。 そこで本研究では、アプローチ行動の代わりに吻伸展反射を用いて、顕微鏡下でも学習成立の判断が可能な報酬学習プロトコルを考案した。また、ショウジョウバエの単離脳を用いて、匂い中枢と甘味中枢への同時刺激により人為的な匂いと甘味情報の連合を試みた。学習過程の吻伸展ニューロンの神経活動を記録した結果、条件付け後の匂い刺激に対して応答が上昇したことから、単離脳で報酬記憶が形成されたと示唆するデータを得ることができた。 空腹や満腹は甘味に対する吻伸展や学習・記憶に影響を与える。そこで、空腹あるいは満腹個体から脳を単離し、甘味中枢刺激時の吻伸展ニューロン応答を観察したところ、空腹脳のみ応答した。これは、単離脳に空腹・満腹情報が保存されていることを示唆する。現在、空腹・満腹脳で報酬学習が形成されるかについて実験を進め、単離脳が真に報酬記憶を形成し得たことを証明しつつある。引き続き同一脳標本による全脳イメージング解析を行い、空腹・満腹情報の保存場所や、報酬性記憶の形成、保持、想起の神経回路の同定を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで我々は、ショウジョウバエの単離脳に対し、匂い中枢への電気刺激(匂い刺激)と、チャネルロドプシンを発現した甘味感覚ニューロンへの光刺激(甘味刺激)を同時に行うことで、報酬制連合学習前後の匂い刺激に対する吻伸展ニューロンの応答が変化したことから、単離脳で報酬記憶が形成されたと示唆するデータを得ることができた。そこで、申請書に記した通り、単離脳で報酬学習が形成されたという裏付けとして、研究①のin vivoイメージング実験を行うことを予定していたが、学習前後の吻伸展ニューロンのin vivo観察は、脳内の吻伸展ニューロンの位置と、脳の組織構造が原因で、2光子顕微鏡を用いても観察が困難であった。そのため、in vivo観察とは異なる方法で、単離脳で報酬学習が形成される裏付けを取ることに変更した。 空腹や満腹は甘味に対する吻伸展や学習・記憶に影響を与える。そこで、空腹あるいは満腹個体から脳を単離し、甘味中枢刺激時の吻伸展ニューロン応答を観察したところ、空腹脳のみ応答し、単離脳に空腹・満腹情報が保存されていることを示唆することができた。そこで、空腹・満腹脳で報酬学習が形成されるかについて新たに実験を進め、単離脳が真に報酬記憶を形成し得たことを証明しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、今年度、空腹・満腹情報が単離脳に保存されていると示唆する新たな結果を得た。研究③-1の報酬学習と記憶中枢キノコ体との関係性とともに、空腹・満腹情報が単離脳のどこに保存されているのか、空腹・満腹状態が報酬学習に与える影響の原因を追求することを新たな目的として、ドーパミンあるいはオクトパミン放出を止めると学習後の吻伸展ニューロンの応答が消失するか、また、どの学習過程のタイミングの放出が関与しているのか、について、それぞれの特異的Ca2+ indicatorを発現させたハエを作成し、我々の単離脳の報酬学習形成モデルを用いて検証する。
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Causes of Carryover |
本年度は、in vivo実験のための費用に充てたが、実験計画の変更により、既に本研究室で所有するショウジョウバエを用いることが出来たため、当初予定していた多数の組換えハエの購入や試薬費用を抑えることが出来た。また学会等への参加も近場に変更したため、それらの旅費も抑えることが出来たこと、妊娠に伴う実験延長のために研究費をセーブしたことから次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画変更に伴い、新たな実験計画を立てたため、候補ニューロンや神経伝達物質に特異的なCa2+ indicatorを発現させたハエを多数購入予定である。そのため、ハエ購入費、飼育するための餌や飼育瓶などの環境維持費、解剖用器具の購入費、学会発表や報告書作成費などに充当する。
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