2017 Fiscal Year Research-status Report
妊娠期高脂肪食が仔マウスの多動性障害を引き起こすー脂肪酸の神経細胞への影響
Project/Area Number |
15K14340
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
山野 眞利子 大阪府立大学, 総合リハビリテーション, 客員研究員 (80192409)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 妊娠期高脂肪食 / 生まれた仔マウス / hyperactivity / オレキシン神経細胞 / 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
胎児期の母体内環境が脳の発達に大きく影響を及ぼす可能性が指摘され、近年広汎性発達障害(自閉症など)、学習障害(LD)、 注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害との関連が注目されている。我々は母体内環境のなかで栄養摂取に着目して研究を行っている。 妊娠2週目の母マウスに50%カロリーの高脂肪食(HFDグループ)を与えると、生まれた仔マウスは、著明なhyperactivity(多動)を示し、普通食(ND グループ)と比較すると脳の視床下部外側野の摂食に関与するオレキシン神経細胞の活性化と肥大化が認められることを見つけた。さらにオレキシン受容体の選択的ブロッカーや、オレキシン受容体(1&2)拮抗薬物の投与により、仔の多動が抑制された。これらのことは母親の妊娠中の高脂肪食摂餌によりマウス胎児の脳におけるneurogenesisが何らかの影響を受け、オレキシン等特定の神経細胞の活動が増加することと、仔の多動という行動異常を引き起こし、いわゆる発達障害ADHDのモデルとなることと、これらのことより将来的にヒトのADHD患者にオレキシン拮抗薬が有効である可能性が示唆される。 さらにどの脂肪酸成分が胎児環境に影響を与え、仔の自発運動の上昇を起こすのか、妊娠マウスを用いて検討した結果、ラードの他、オリーブ油に代表されるオレイン酸を主体とした一価不飽和脂肪酸の影響が大きいことを見出した。さらに胎生期の脳の高脂肪環境が、大脳皮質ではヒストンテイルのアセチル化の亢進、ニューロンの分化の亢進を起こしていることを報告したが、同様に視床下部のオレキシン神経細胞でも分化の亢進が起こっているかについても検討している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は高脂肪食のなかでどの脂肪酸成分が仔の自発運動の上昇を起こすのか、網羅的に解析した結果、リノール酸等の多価不飽和脂肪酸では生まれた仔に多動が生じず、さらにオレキシン神経細胞の活性化も認められなかった。しかしオリーブ油やオレイン酸を主とした高脂肪食ではラード餌と同様、生後2か月からの仔の多動と、オレキシン神経細胞の活性化が認められた。このことより母体環境でオレイン酸を主体とした一価不飽和脂肪酸の胎児に影響が大きいことが示唆される。さらにヒトの睡眠導入剤として使用され始めたオレキシン受容体(1&2)拮抗作用をもつBelsomraを餌に混ぜて与えたところ、オレキシン受容体選択的ブロッカーの腹腔注射と同様に多動が大幅に抑制されたことより、ヒトのADHD患者にもこの薬剤が有用である可能性が示唆される。 今年度はオレキシン神経細胞とCalbindin免疫陽性に注目した。CalbindinはGABA系の神経細胞のマーカーでもある。抑制性の働きをするCalbindinが、オレキシン神経細胞と同一細胞内にあることは、細胞内活性物質の調整の異常を引き起こし、多動のような神経障害を引き起こしている可能性が考えられる。また生直後よりオレキシン神経細胞は、Calbindinとも共存し視床下部外側野に出現しており、さらに高脂肪食の仔ではコントロール動物と比較して、より強い免疫蛍光を示すことを認めた。このことよりオレキシン神経細胞は恐らく胎児期での発生中に高脂肪により何らかの影響を受けていることが示唆された。また多動を示す高脂肪食の仔の脳では視床下部外側野のオレキシン細胞の大きさが1.3倍と大きく、さらに海馬自体の大きさもやや大きいことが認められた。また海馬CA1のApical dendriteの肥大も認められた。このことよりHFDグループの仔は、通常よりも海馬が発達していることが示唆される。
|
Strategy for Future Research Activity |
マウスを用いて妊娠期の高脂肪餌による胎児脳への影響を検討し、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸の影響が大きいことが明らかになった。特に神経細胞の分化が起こる妊娠中期に、何らかの大きな影響があると考える。オレキシン神経細胞は生直後には視床下部ですでに出現していた。このことより摂食の働きに関与するオレキシン神経細胞は、神経幹細胞からの分化・発現が他の神経活性物質よりかなり早期に起こることが示唆され、この際高脂肪食胎児環境が大きな影響を及ぼす可能性があり、このことを詳細に解明していく。30年度は最終年度であり、高脂肪食によりマウス胎児脳内での発現が大きく変化する神経細胞や神経膠細胞に、転写、調節因子を含めどのような因子が関与するのか胎児脳のWestern blotting用の試料の採取と、acetylatuionやmetilationを見るH3K9抗体、TBR2抗体等を用い、妊娠期の高脂肪食が胎児脳のどの部に影響を及ぼし、生まれた子が多動になった理由の解明を進めていく。これがヒトの「発達障害」のひとつADHDの原因究明と、予防・治療に役立つことと考える。我々はオレキシン神経細胞がCalbindin免疫陽性を示すことを見つけている。マウス胎児脳でのこれらの細胞をマーカーとして遺伝子の発現変動に関与するエピジェネティクス修飾の解析を進めていく。
|
Causes of Carryover |
大阪府立大学での客員研究員として当該研究を遂行していたが、動物舎が手狭で動物の使用が大幅に制限された。このためマウス妊娠期における胎児脳を詳細に検討する実験ができなくなり、Western blotting等の実験を次年度に回さざるを得なかった。幸いにも奈良県立医大の博士研究員として科研資格も取得し、拠点を移動し、次年度は胎児脳を用いた遅れている動物実験をするべく準備は整っている。
|