2016 Fiscal Year Research-status Report
深海底微生物のメタゲノム分析と新奇レアメタル依存遺伝子発現誘導機構の解明
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15K14419
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
芦内 誠 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (20271091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若松 泰介 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 講師 (60597938)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 深海底 / 難培養性微生物 / メタゲノム / レアメタルバイオロジー / 核酸スイッチ / 金属イオン吸着 / 機能性バイオ高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
南海トラフ試料より同定した計7種のSIGEXクローン(Ni応答型3種とGa応答型4種)に含まれる新奇塩基配列について、相同性分析/高次構造予測/計算化学分析(自由エネルギー算出など)のインシリコ解析を進めた。結果、Ga応答型4種のいずれも“Fe欠乏時誘導”遺伝子群との類縁性を示す塩基配列群(主にFe取り込みに係るABC輸送系関連)を有した。典型金属種でアルミ族に属するGaは非生物学的元素とされながら、遷移金属種(鉄鏃)で生物活動に必須の元素とされるFeの動態/挙動によく重なるとの見解がある。今回、深海底メタゲノムのレベルでもこれが支持された。一方、同じく鉄鏃元素のNiに対する応答配列には異なる側面が見えた。うち2種は転写制御因子類似でタンパク質による典型的な発現制御に関わるものと示唆され、残りの1種は核酸スイッチファミリーに属することが分かった。南太平洋還流試料より得た同クローン3種からも核酸スイッチとしての働きを期待させる高次構造を含む塩基配列が見つかっている。これらの構造が(高性能レアメタル回収基材に求められる)実質的な金属吸着能を備えているかどうかを調べるため、かかる分析に有効とされる“等温吸着式(ヒルやラングミュラの式など)”モデルを応用した。結果、金属イオンへの吸着(結合)と脱着(解離)が頻繁に繰り返されていることが示唆され、該回収基材の開発には改善の余地を残した。 さらなる研究対象の探索・追求にも挑戦した。特に注目したのは、農場堆肥から深海底堆積層 (地下) に至る多様な環境に生息する“超広域環境微生物”である。既に公開されている全ゲノム情報とこれまでに明らかにした各種応答配列の解析アルゴリズムを照らし合わすことで、レアメタルに対する微生物応答の多様性分析、並びに高性能レアメタル回収基材の開発に不可欠な基盤的な構造情報の取得と応用(配列設計等)に期待が持てる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
難培養性微生物が大半を占める深海底環境では従来の微生物学が通用せず、特に遺伝子関連の情報が決定的に不足していた。そこで、初年度次に同定した新規レアメタル応答配列の詳細分析を進めた。今回、Gaは生物応答においてFeと誤認されやすい金属種であることが深海底メタゲノム分析からも支持されたことは、生体反応の進化・多様化を考える上で重要な知見となる。さらに、SIGEXクローンから多様な核酸スイッチ様の制御システムが発見されたことに関しては(静的環境とされる深海底でさえ)その周辺環境の違いがゲノム構成や遺伝子発現制御の様式における多様性を生み出す原動力になる可能性を示唆している。本件はゲノム生物学上でも重要度の高い情報を与えるものであり、基礎研究の部分では「当初の計画以上に進展している」との評価に値するといえる。一方、さらに野心的な目標として掲げた「高性能レアメタル回収基材の開発への応用」に関してはさらなる吸着性能の向上が求められており、この点「(想定よりも)やや遅れている」と言わざるを得ない。より一層の応用研究推進を目指して“超広域環境微生物”に存在するレアメタル応答配列の集中解析に着手した。かかる有力候補の選抜についてはすでに作業を完了している。以上より、本年度の総合評価は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
深海底メタゲノム(南海トラフ試料及び南太平洋還流試料)より同定した新奇レアメタル応答配列に関する精査は最終段階を迎えている。本件最終年度の(可能な限りで)早い時期に、他に先駆けて広く関連情報を発信する。基礎研究の進展に比し、応用研究の面ではより一層の推進を図る必要がある。そこで、超広域環境微生物の一種“巨大菌”に焦点を当て、そのレアメタルに対する応答性分析とレアメタル選択吸着性に優れた核酸スイッチ様の塩基配列の同定、さらには当該配列末端をビオチン等で分子標識するとともに、アビジンカラム等とのコンビネーションにより、新規「特定レアメタルイオン分離システム」の開発を進める。深海底微生物の大半が難培養性微生物であるのに対し、巨大菌は培養容易であることに加え、応用微生物学や遺伝子工学の既存技術が使えるため、迅速解析が求められる状況下での利用価値は高い。 微生物の培養分野ではレアメタルイオンの一般化学性への関心が薄く、応答性分析が進まない一因となっている。すなわち、細胞に取り込まれやすいイオン態は強酸性pHでは安定だが、微生物全般の培養に適した中性pHではほぼ完全に不溶態化してしまう。よって、中性域でもイオン態で存在させる必要があった。最近、ある天然化合物を混合することで安定化に成功した。今回は巨大菌の培養にも適用し、レアメタルに特異的な応答性が認められるかどうか調べる。次いで、巨大菌ゲノム情報と応答現象の相関分析、並びに遺伝子発現調節領域に存在する核酸スイッチ様配列の同定とイオン吸着能分析まで行う。優れた吸着性能を発揮する配列に関しては、上述「特定レアメタルイオン分離システム」に必要な基盤部材としての応用(構造最適化など)を図る。なお、現時点での最有力候補は巨大菌の環境適応因子“高度立体規則性ポリγグルタミン酸”の生合成を支配する調節領域内の核酸スイッチ様塩基配列である。
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Research Products
(22 results)
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[Presentation] 南海トラフ深海底コア試料を対象とした基質誘導型遺伝子発現解析法SIGEXによるNi<2+>, Ga<3+>応答遺伝子の同定2016
Author(s)
森澤高至, 諸野祐樹, 寺田武志, 西川聡美, 尾崎和弘, 北村 萌, 大下紘貴, 佐藤瑞希, 稲垣史生, 芦内 誠, 若松泰介
Organizer
日本農芸化学会 2016年度中四国支部大会
Place of Presentation
高知大学朝倉キャンパス(高知県)
Year and Date
2016-09-15 – 2016-09-16
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