2016 Fiscal Year Research-status Report
高感度変異検出法の開発を目指した多能性幹細胞ゲノム維持機構の解明
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15K14430
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
日高 京子 北九州市立大学, 基盤教育センター, 教授 (00216681)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ミスマッチ修復 / 多能性幹細胞 / MSH2 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミスマッチ修復に関わるタンパク質はDNA修復のみならず、DNA損傷を受けた細胞のアポトーシス誘導にも必要であり、ゲノム維持機構に重要な役割を果たしていると考えられる。我々は昨年度に引き続き、ミスマッチ修復に関わるMSH2遺伝子等に変異導入を行い、解析を進めている。 MSH2はMSH3やMSH6とともにDNA鎖上の誤対合を認識し、構造変化を経て下流の修復タンパク質群を動員する。この構造変化はATP依存性であり、ATPaseドメイン内のG674A変異はマウスにおいてミスマッチ修復機能の消失をもたらすもののアポトーシス誘導能は損なわず、DNA修復とアポトーシス誘導の重要な分岐点を捉えていると考えられてきた。そこでまずヒト細胞であるHeLa細胞を用いてウイルスベクターを用いた変異タンパク質の発現、およびCRISPR-Cas9によるゲノム編集による変異導入を行なったところ、予想に反してマウスで報告された結果は再現できず、G674A変異によりミスマッチ修復能もアポトーシス誘導も損なわれることがわかった。これがマウスとヒトという種の違いによるものなのか、タンパク質レベルの解析を含め、さらなる検討が必要である。 一方、多能性幹細胞であるヒトiPS細胞は高度なDNA修復能力を持つが、ゲノム維持機構におけるアポトーシス誘導についてはまだ不明な点が多い。近年のゲノム編集技術の著しい発展により、HeLa細胞などの培養細胞においても比較的容易に変異を導入することが可能となってきたが、ヒトiPS細胞ではクローニングの効率が低く、ゲノム編集の障害となっている。本年度はヒトiPS細胞をフィーダーフリーの培養条件で安定に維持できる条件を検討しつつ、HeLa細胞で得られたゲノム編集技術のノウハウの適用を試みた。その結果、効率はまだ低いが、いくつかの変異株の候補クローンが得られたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、多能性幹細胞のゲノム安定性維持機構としてミスマッチ修復系の関与に着目し、鍵となる経路・因子を同定し利用することを目的としている。しかしながら、まずはミスマッチ修復経路がゲノム維持機構にどの程度重要な役割を果たしているか、さらには個々のタンパク質の機能はどのようであるかを、マウスではなくヒト細胞で十分に解析することがより重要であろうということにより、HeLa細胞で研究をスタートさせた。HeLa細胞ではウイルスベクターを使った変異タンパク質の発現、およびゲノム編集を用いた変異導入などにより、変異MSH2タンパク質のin vitroにおける特性(パートナータンパク質との相互作用、タンパク質安定性、ミスマッチ結合およびリリース能など)、および変異株の表現型(突然変異頻度、細胞死誘導など)について、順調に結果を得ることができている。また、DNA修復に関する別の遺伝子、DNAポリメラーゼの校正機能を司るPOLD1遺伝子についてもCRISPR-Cas9を用いて同様に高い効率で変異株を得ることができ、HeLa細胞でのゲノム編集は技術的にほぼ確立したと考えられる。一方、ヒトiPS細胞におけるゲノム編集技術の導入については、効率は低いものの順調に進んでおり、このため自己評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでにHeLa細胞で得られた結果をまとめていく予定である。さらに、ヒトiPS細胞における変異解析をシステマティックに行えるよう、より効率の高いゲノム編集技術の確立と条件の最適化をめざす。これまでに得られた変異iPS細胞株候補クローンについてもHeLa細胞と同様にin vitroおよびin vivoの解析を進める。 MSH2をはじめとするミスマッチ修復の遺伝子の変異は、大腸がんを多発するヒト遺伝性疾患Lynch syndromeや散発性大腸がんで報告されている。しかしながら、タンパク質の構造にさほど重大な変化を及ぼさないと思われる遺伝子多型(バリアント)も多数報告されており、これらが果たして多能性幹細胞の長期培養および継代による変化にどのような影響を及ぼしうるか、大変興味深いところである。今回確立したゲノム編集技術は効率の高いバリアント作製法の開発につながり、バリアント解析を通して多能性幹細胞の質を維持するためのメカニズムについて重要な知見が得られると期待される。 一方、アポトーシス誘導に関しては、MSH2・G674A変異がマウス細胞で報告されているような結果をもたらさなかったので、別の戦略を練り直す必要がある。まずはアポトーシス誘導を薬剤により阻害することによって、変異に与える影響を検討するところから始めたい。
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Causes of Carryover |
ヒトiPS細胞について、試した培養条件等に問題があり、一時研究が中断したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ヒトiPS細胞をより安定に培養、および効率よくゲノム編集できるよう条件を再検討する。このために各種培地、増殖因子、コート剤等を購入する予定である。
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Research Products
(6 results)