2015 Fiscal Year Research-status Report
立体イメージベースモデリングによる眼杯組織の動力学場推定
Project/Area Number |
15K14534
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
奥田 覚 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (80707836)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 敦史 京都大学, 教育学研究科(研究院), 助教 (80641753)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 3次元バーテックスモデル / 器官形成 / バイオメカ二クス |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物の発生過程では,細胞の増殖,アポトーシス,収縮などの様々な細胞活動が見られる.これらの細胞レベルの力作用により,組織レベルの三次元的で複雑な形態変化が生じる.しかし,組織形成に対する細胞活動の力学的な影響については未知な点が多く,細胞レベルと組織レベルを橋渡しする試みは緒に就いたばかりである.本研究では,三次元頂点モデルによる力学シミュレーション技術と画像解析技術を組み合わせることにより,多細胞組織形成における立体的な力学場を定量的に推定する手法の開発を行う.さらに,マウス胚における眼杯形成の過程を観察し,開発した推定手法を適用することにより,眼杯組織の立体構造の形成過程における細胞レベルの力学場,および,それが細胞の動態や組織の形態形成に及ぼす影響について究明する. 多細胞組織の形態形成は,能動的なアポトーシスを伴う.そこで,本研究では,アポトーシスによる細胞数の変化や力学作用が及ぼす影響を考慮した形態形成の力学場推定を可能にするため,三次元バーテックスモデルにおけるアポトーシスの数理モデル化を行った.本モデルでは,細胞のアポトーシスを形態的な変化と幾何学的な変化に分けてモデル化した.まず,形態的な変化については,エネルギー関数の時間変化により表現した.さらに,幾何学的な変化については,本数理モデルの元となる三次元頂点モデルにおいて細胞を表現する多面体の融合により表現した.特に,この融合に際して,幾何学ネットワークの変換則に従う工夫を行うことにより,幾何学的な矛盾を生じること無く,連続的な数値解析を実現した.さらに,この数理モデルを用いて,複数の幾何形体を有する多細胞組織のダイナミクスについて,数値シミュレーションを行い,アポトーシスの影響を考慮した力学場推定が可能であることを確かめた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多数の細胞からなる組織・器官は,細胞骨格や細胞間結合タンパク質によって結合された連続的な構造物であり,組織局所の物性は,能動的・受動的に振る舞う.例えば,上皮組織の頂端面付近には,収縮性のアクチン細胞骨格が存在し,ミオシン活性の程度に応じて,その収縮性が変化する・このような細胞構成要素レベルの内部構造による力作用を,三次元頂点モデルの幾何学的な構成要素を基準とし,ポテンシャルエネルギー関数として数理モデル化した.この際,頂点の数に依存したアーティファクトな影響を避けるため,細胞形状のみに依存した関数を用いた. 定量的な評価を実現するために,領域分割を三次元に拡張し,適用することで,観測データに基づいた客観的な組織形状取得を行った.組織内の細胞は数が多く,手動で客観的な検出を行うことが困難である.これに対しては,細胞の形状が凸包であることを利用し,細胞の輪郭からの距離が極大となる点を検出する画像処理を行い,自動で細胞を検出した. 眼杯組織の立体的な形態変化を観察するため,E7.5からE10.5の期間におけるマウス胚の眼杯形成過程のイメージングを試みた.まず,切片の染色により,三次元的な細胞・組織の形態と網膜組織などへの分化状態,および,アクトミオシンの活性や細胞分裂,アポトーシス等の空間分布を観察した.次に,細胞の力学的な状態を直接的に制御する細胞骨格に対して,薬理的な摂動を加え,細胞活動や細胞・組織変形への影響を観察した.
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Strategy for Future Research Activity |
組織形成の時間スケールは数時間から数日オーダーである.したがって,多くの場合,その変形過程は,熱力学的に純正的な過程である.そこで,各時刻において,組織内外の内力は釣り合っているものと仮定する.この仮定の下で,組織形態を表現するネットワーク構造に対して,設計したポテンシャルエネルギーを計算する.さらに,時系列になった複数のネットワーク構造において,同様のエネルギーを計算し,各エネルギー成分の変形を組織の局所ごとに計算する.これにより,力作用を引き起こす物理パラメータを推定する. 三次元頂点モデルでは,個々の細胞が1つの多面体で表現され,組織全体の形態は多面体の頂点とエッジとを結ぶ1つのネットワークで表現される.さらに,このネットワーク上では,1つの頂点に対して必ず4つのエッジが連結するという規則ある.この規則を考慮し,三次元ボロノイ手法を用いて,抽出した細胞・組織の形態の情報から,実際の組織を三次元頂点モデルに粗視化したネットワーク構造を作成する. これまでのin vitroの研究によって,眼杯組織の応力場の観察に成功している.これに加えて,眼杯組織が外部組織から受ける力学的作用を検討するため,眼杯が組織中に埋まったin vivoでの応力場の観察を試みる.レーザーアブレーションやピンセット等を用いて,組織外部からの力学的な摂動を加え,それに対する眼杯組織の応答を観察することにより,推定された物理パラメータの妥当性を評価する.
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Causes of Carryover |
研究計画の軽微な変更により,計算機等の必要な機材の購入を先送りにしたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の研究計画と同様に,計算機等の機材の購入に使用する.
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