2015 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリアを中心とした植物の新しいカルシウム制御ネットワーク
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15K14553
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
椎名 隆 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (10206039)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Ca2+ / ミトコンドリア / 接触刺激 / DBMIB |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアは酸化呼吸の場であるとともに、アポトーシス、酸化ストレス応答、老化など様々な細胞応答の司令塔としての役割をもつことが動物細胞ではよく知られている。その制御の中心で重要な役割を果たしているのがCa2+シグナリングである。しかし、植物細胞のCa2+シグナリングとミトコンドリアの関係はよく分かっていない。本研究では、ミトコンドリアのCa2+シグナリングとの関係が推定される候補因子として、ミトコンドリア局在の機械受容チャネルMSL1およびミトコンドリアCa2+ユニポーターの制御因子であるMICU1に注目し、ミトコンドリアを中心としたCa2+制御ネットワークの実態と、生理応答制御における役割の解明を目指している。 平成27年度までの研究で、MSL1およびMICU1に対する特異抗体を作成し、MSL1がミトコンドリア内膜に存在する膜タンパク質であること、さらにMICU1がミトコンドリア内膜の膜表在タンパク質であることを明らかにした。さらに、植物体に弱い接触刺激を与えることで細胞質Ca2+濃度の一過的上昇が起こること、ミトコンドリアの電子伝達を阻害することでも同様なCa2+応答が起こることを見出した。この細胞質ゾルのCa2+応答は細胞外からのCa2+流入に依存せず、明暗に関係なく生じることから、ミトコンドリアからのCa2+放出が関係する可能性が示唆された。さらに、接触刺激とミトコンドリア電子伝達阻害によって共通する遺伝子群の発現応答が見られることから、接触刺激に対する遺伝子発現応答にミトコンドリアによる細胞質ゾルのCa2+制御が関係すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 バクテリア型の機械受容チャネルの一種であるMscSは、細胞の浸透圧調整に関係し、Ca2+透過性のチャネルでもある。植物のMscSホモログの一つMSL1はミトコンドリア局在であると考えられていた。これまでに、MSL1特異的抗体やGFP融合タンパク質発現植物を作成し、MSL1がミトコンドリア内膜に局在することを明らかにした。 2 動物細胞では、ミトコンドリアのCa2+輸送チャネルとしてMSCが知られている。また、MSCを制御する因子としてMICU1が知られている。これまでに、MICU1の特異抗体やGFP融合タンパク質発現植物を作成し、MICU1がミトコンドリア内膜に局在することを明らかにした。 3 接触刺激は、細胞質ゾルのCa2濃度の一過的上昇を引き起こすことが知られている。27年度、接触刺激が誘導するCa2+濃度上昇に、細胞外からのCa2+流入でなく、ミトコンドリアや葉緑体などからのCa2+放出が関係することを明らかにした。特に、このCa2+応答は暗所でも見られることから、ミトコンドリアの関与が示唆された。一方、ミトコンドリア電子伝達阻害剤のDBMIBを処理することで、接触刺激応答遺伝子の多くが発現応答すること、DBMIBも根や暗所で細胞質ゾルのCa2+応答を引き起こすことから、接触刺激応答の初期過程で、ミトコンドリアが関与する細胞質ゾルCa2+上昇と、それに引き続く遺伝子発現パターンの再構成が起こっていることが考えられた。 4 さらに、サリチル酸がミトコンドリア膜電位の低下とミトコンドリアの膨潤を引き起こすことを見出した。サリチル酸の生理応答において、ミトコンドリアが直接のターゲットとなっている可能性が考えられた。 以上のように、研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞質Ca2+制御におけるミトコンドリア局在MSL1およびMICU1の関与の検証: バクテリア型機械受容チャネルのホモログであるMSL1は、Ca2+透過性のチャネルである可能性がある。また、MICU1が制御するMCUは、ミトコンドリアのCa2+ユニポーターであり、Ca2+輸送に関係する。平成27年度までの研究で、MSL1およびMICU1がミトコンドリア膜に局在するタンパク質であることを明らかにしている。MSL1やMICU1のノックダウン(ノックアウト)植物や過剰発現体と、細胞質Ca2+モニター用イクオリン発現植物の掛け合わせ体を作成し、接触刺激やミトコンドリア電子伝達阻害剤が引き起こす細胞質ゾルCa2+濃度上昇における役割を評価する。
ミトコンドリアによる細胞質ゾルCa2+制御を介した接触刺激応答遺伝子発現におけるMSL1およびMICU1の役割の検証: 接触刺激とミトコンドリア電子伝達阻害は、共通の遺伝子群の発現応答を誘導する。MSL1およびMICU1変異体をつかい、接触刺激とミトコンドリア電子伝達阻害が誘導する遺伝子発現応答に、これらのミトコンドリアCa2+輸送制御候補因子が関わる可能性を探る。さらに、Ca2+シグナリングとミトコンドリア由来のROSシグナリングのクロストークの役割についても検討を進める。
MSL1およびMICU1の分子機構の解析: MSL1について、動物細胞を使った異種発現系を用い、MSL1の機械受容チャネルとしての電気生理学的特性を評価し、Ca2+に対する透過性を確認する。
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Causes of Carryover |
本研究課題についての論文投稿が2016年度になったため、投稿料が繰越となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画していた実験経費を予定通りに使用するとともに、本研究課題についての論文投稿を2016年度中に行い、そのための投稿料を支出する。
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[Presentation] Calcium regulation in plant organelles and its role in cellular signaling.2015
Author(s)
Shiina, T. Shimotani, K., Kotani, M., Yamaoka, S., Yomogihara, S., Yamazaki, K, Ishizaki, Y.
Organizer
FEBS Workshop on Plant Organellar Signaling Primosten 2015
Place of Presentation
Primosten, Croatia
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-20
Int'l Joint Research / Invited
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