2016 Fiscal Year Research-status Report
二枚貝における産卵誘起フェロモンの決定と一斉産卵機構の解明
Project/Area Number |
15K14561
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
栗田 喜久 東北大学, 農学研究科, 助教 (40725058)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 二枚貝 / 産卵 / フェロモン |
Outline of Annual Research Achievements |
二枚貝類にみられる高度に同調した一斉産卵現象の内分泌的基盤するため、二枚貝類の放卵・放精液が他個体の産卵誘発する機能に着目し、二枚貝の産卵誘発フェロモンの探索を行った。平成28年度は産卵誘発フォロモンの単離・精製作業と産卵誘発フォロモンの異種間感受性についての検証を実施した。産卵期のムラサキイガイ(約80個体)とムラサキインコガイ(約150個体)の成熟オス個体より精巣を摘出し、これを破砕後、超遠心分離と限外濾過により10kDa以下の低分子物質のみを粗精製した。この粗精製液を逆相カラムによるHPLCにて精製し得られた画分を産卵誘発実験に供したところ、両種ともに産卵誘発率90%を超える強い活性を示す画分が得られた。この活性を示した画分について3段階目のHPLC精製までは80%以上の高い産卵誘発率を示す画分が得られたが、4段階目の精製画分からは最高でも50%程度と産卵誘発率の顕著な低下がみられた。これはおそらく画分中の産卵誘発物質の濃度が精製を繰り返す中で低下したためであることが推測される。また産卵誘発フェロモンの異種間感受性を検証するため、近縁種間での感受性検証系として同じイガイ科に属するムラサキイガイの産卵期成熟個体(n = 20)にムラサキインコガイの放精液を、また遠縁種間での感受性検証系として目レベルで系統の異なるアカガイの産卵期成熟個体(n = 10)にマガキの放精液を、それぞれ与え産卵誘発実験を試みた。その結果、ムラサキイガイ×ムラサキインコガイの近縁種間系では約40%の個体で産卵が誘発されたのに対し、アカガイ×マガキの遠縁種間系では90%の個体で産卵が誘発された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は2種のイガイ科二枚貝(ムラサキイガイとムラサキインコガイ)について産卵誘発物質の単離・精製作業を、強い産卵誘発能力を維持しつつ順調に進めることができた。HPLCによる精製を進める過程でおそらく産卵誘発物質の濃度低下による産卵誘発率の低下が生じ、質量分析などの構造決定作業には至らなかったものの、来年度は精巣摘出に用いる個体数を大幅に増量することで問題は解決可能であると予測する。本実験に用いている2種の二枚貝はいずれも全国に多産する普通種であり、大量の個体を容易に採集することができるため、使用個体数の増加は実験を進める上での問題とはならない。また産卵誘発フェロモンの異種間感受性実験の結果からは系統的に近縁な種間よりむしろ遠縁な種間において強い産卵誘発活性を示すことが明らかとなった。これは近縁種間ほど感受性が高くなるという当初の予測に反する結果であったが、たとえば近縁種間の交雑を予防する仕組みの一つとして近縁種間での産卵誘発は抑制的に機能するという可能性は一斉産卵現象を理解する上では興味深い現象であるといえる。この異種間感受性の検証については、実験種数および個体数を増やしてのさらなる追試が必要であるものの、産卵誘発フェロモンの単離・精製実験と併せた研究全体としては概ね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、昨年度に引き続きムラサキイガイとムラサキインコガイを用いて成熟した精巣からの産卵誘発フェロモンの単離・精製と産卵誘発実験による産卵誘発能力の検証作業を実施する。精製過程で産卵誘発率が低下するという問題を解決すべく、本年度は両種ともに精巣摘出に用いる成熟オス個体数を300個体程度に増やし、抽出・精製実験を行う。また今年度は4段階目のHPLCによって産卵誘発物質を含む画分が得られた段階で、一部を対象に質量分析を行い物質の同定作業を試みる。また産卵誘発フェロモンの異種間感受性については、昨年度強い異種間産卵誘発活性を示したマガキの放精液を用いて、アサリ・ウバガイ・アカガイ・ムラサキイガイの産卵期成熟個体に対する産卵誘発実験により検証する。また放精液が得られた各種二枚貝については、同種内および異種間の産卵誘発機能の有無を検証し、二枚貝綱における産卵誘発フェロモンを介した産卵機構の共通性について解析する。
|
Causes of Carryover |
今年度は予定していた謝金が発生せず、その分を消耗品費などへ充当したなど、計画に若干の変更が生じたため次年度使用額が発生した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
HPLC精製画分などアッセイ用の冷凍サンプル輸送費用として使用する計画である。
|