2015 Fiscal Year Research-status Report
生殖細胞を介さず次世代へと伝わる菌細胞ゲノムの遺伝学・進化学的解析
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15K14583
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
土田 努 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (60513398)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 共生微生物 / 菌細胞 / 共生器官 / 遺伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物の体は、単一の生殖細胞に由来する細胞の集合体であると、常識的に考えられている。しかし、我々は先行研究で行った予備実験により、タバココナジラミBemisia tabaci MEAM1系統を対象とした解析を行い、その必須の共生細菌を収納する細胞である“菌細胞”は、独自の遺伝機構を持ち、他の体組織の細胞とはゲノム組成まで異なっている可能性を見出だした。本研究課題では、コナジラミ菌細胞の次世代への遺伝様式の詳細な検証や、コナジラミ科昆虫に おける菌細胞ゲノムの進化、コナジラミ菌細胞ゲノムで独自進化した遺伝子の検出と機能解明を目的とする。平成27年度は、以下の研究成果を得た。 1)菌細胞の伝達様式の遺伝学および組織化学的検証 3つの独立したラインを対象に、最大5世代までにわたって、4種のマイクロサテライトマーカーを用いた遺伝学的解析をおこなった。その結果、菌細胞の遺伝型は体細胞とは確かに異なっており、父親由来のゲノムが交じることなく、母親の菌細胞と同一の遺伝型がそのまま伝えられることが明らかになった。また、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を用いて、発生段階ごとに、菌細胞と共生細菌を組織化学的に解析した。その結果、卵に伝えられた母親に由来する菌細胞は、肥大化・分裂を続けた。また、体細胞から新たに菌細胞が生じる様子は観察されなかった。以上の結果から、菌細胞には独自の遺伝機構が存在し、独自の遺伝型をもっていることが示された。 2)コナジラミ科昆虫における菌細胞ゲノム組成の遺伝学的・系統進化学的解析 コナジラミ科に属する、タバココナジラミ MED Q1、オンシツコナジラミ、チャトゲコナジラミのサンプルを入手した。今後、菌細胞の解剖およびミトコンドリアCOIやND5、ribosomal RNA遺伝子の ITSといった高変異領域をPCR増幅し、塩基配列を比較を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コナジラミ科昆虫における菌細胞ゲノム組成の遺伝学的・系統学的解析については材料の入手等に時間がかかり計画通り進まなかった面もあるが、伝達様式の遺伝学および組織化学的検証においては、大規模な交配実験とマイクロサテライトマーカーをつかった解析により、確かに菌細胞が生殖細胞とは独立した遺伝様式をもつことを示すことに成功した。計画は、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
菌細胞ゲノムの遺伝様式について、コナジラミ科の他種を対象に、現象の一般性と多様性の確認を行う。また、菌細胞ゲノムの変異領域を明らかにするため、変異の大きいバーコード領域の遺伝子や、特定遺伝子のイントロン領域、菌細胞特異的発現遺伝子の上流領域などを中心に配列解析を進める。また、Feulgen image analysis densitometryを用いた菌細胞の倍数性の解析や、菌細胞ゲノム解析を進める。
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Research Products
(1 results)