2016 Fiscal Year Research-status Report
拮抗する自然選択による集団内の遺伝的多様性維持:一見不適応な花形態は何を物語るか
Project/Area Number |
15K14592
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土畑 さやか (中川さやか) 京都大学, 農学研究科, 研究員 (00750621)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 集団内変異 / 花形態 / 二年生草本 / 生活史 / ロゼット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、集団内に一見不適応な花形態変異が存在するツツザキヤマジノギク(以後、ツツザキ)(キク科植物)を対象に、集団遺伝学的解析および花形態変異と相関する適応形質の探索を行うことで、ツツザキ集団内の花形態変異がどのような自然選択によって維持されているかを明らかにし、自然選択による集団内の遺伝的多様性維持メカニズムの包括的理解に向けた新たな視点を提示することを目的とする。 平成28年度は、ツツザキ集団内の花形態変異を可能にする新規適応形質の探索を野外観察にて行った。ツツザキを含むヤマジノギク種群Aster hispidusは二年生草本とされているが、河原に生育するツツザキヤマジノギクにロゼットを持つ開花個体が観察され多数回繁殖の可能性が考えられた。そのため、新規適応形質として、開花個体におけるロゼット形成に着目した。当該年度は、シオン属の二年生草本とされる複数種・変種において、ロゼットをもつ開花個体がどの程度みられるか、さらに、ロゼットを持つことと生育環境との相関の有無を検証することを目的とした。ヤマジノギク種群内のヤマジノギク(草地・河原)、ツツザキヤマジノギク(河原)、ヤナギノギク(蛇紋岩地)と近縁種カワラノギクA. kantoensis(河原)を生育地で調査した結果、両種共にロゼットをもつ開花個体が見いだされ、その割合は、河原・蛇紋岩地に生育する集団の方が草地に生育する集団よりも有意に高いことが示された。河原や蛇紋岩地は環境撹乱の度合いが草地よりも大きく、花茎の損傷等により当年の開花・結実が妨げられやすいと考えられる。このことから、開花個体が予めロゼットに投資しておくことは、撹乱環境下での適応的なリスク分散戦略であると解釈できる。ツツザキにおいて開花個体のロゼット形成が花形態変異と相関する形質とは示されなかったものの、それ自身が適応形質であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ツツザキ集団と同様の花形態変異を持つヤマジノギク集団を三重県にて確認している。両集団は約200km隔離されているが、同様の環境に生育するという共通点があり、本研究において重要である。 平成28年度は、ツツザキ集団および三重ヤマジノギク集団にみられる花形態変異は一回起源なのか、または、各集団で独立起源(平行進化)なのかを明らかにすることを目的とし、ツツザキ集団および三重ヤマジノギク集団の遺伝的関係を明らかにする予定であった。しかしながら、近畿以東におけるヤマジノギクは減少傾向にあり解析に十分なサンプルを収集することができず、解析を行うことができなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、ツツザキ集団および三重ヤマジノギク集団の遺伝的関係を明らかにする。方法としては、他地域のヤマジノギク集団のサンプル数を増やし、RAD-seqを用いた集団遺伝学的解析を行う予定である。また、花形態差に対応する発現差を示す遺伝子座の特定には、RNA-seq解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、ツツザキ集団および三重ヤマジノギク集団にみられる花形態変異は一回起源なのか、または、各集団で独立起源(平行進化)なのかを明らかにすることを目的とし、ツツザキ集団および三重ヤマジノギク集団の遺伝的関係を明らかにするための解析に交付金の大半を使用予定であった。しかしながら、近畿以東におけるヤマジノギクは減少傾向にあり分布の情報収集が遅れており、解析に十分なサンプルを収集することができず遺伝解析を行うことができなかったため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、ツツザキ集団および三重ヤマジノギク集団の遺伝的関係を明らかにするために、引き続き他地域のヤマジノギク集団の分布情報及びサンプル収集を行いサンプル数を増やし、RAD-seqを用いた集団遺伝学的解析を行う予定である。
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