2015 Fiscal Year Research-status Report
飛行能力がもたらす戦闘能力の急速な局所適応:人工群島のクモ群集をモデルとして
Project/Area Number |
15K14597
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
林 守人 宮城教育大学, 環境教育実践研究センター, 研究員 (70625037)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / クモ / サラグモ / アシナガグモ / 島嶼生態学 / 進化生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの成果として,風媒分散と水への適応能力に関する新発見が,筆者をコレスポンディングおよびファーストオーサーとして英国の国際専門誌に発表された.この論文はBioMed Central社からのプレスリリースを受けて報道され,Nature等のインタビューを含む,世界約500メディアに取り上げられた(BioMed Central社広報部Joel Winston氏による分析).本成果はクモを用いた誰にでも分かりやすいものであり「クモが水上で脚を上げ,風力で帆走する」という目立ち易い部分だけでなく,「水上行動を巧みに行うクモは,風に乗って空を飛ぶ傾向があり,たとえ着水してもサバイバル出来る」という理論的な部分にも興味を持って紹介して頂けた.また一般の方向けの記事だけでなく,子供向けの解説も研究の面白さを損なう事無く伝えており,わずかながら科学教育にも貢献出来たのでは無いかと考えている. この論文は,風媒分散能力が実は陸上よりもむしろ水上における適応能力の進化によって開放されてきた事を示したものであり,風媒分散の進化に光を当てたものである.風媒分散はこれまで,長距離移動を可能にする一方でリスクが高いとされてきた.生物が風任せで移動するメカニズムは,多数のクモが飛行する様子を洋上のビーグル号で目撃したダーゥインが,航海日誌に「説明する事が出来ない現象」と書き記した事に端を発する長年の謎だった.同様の傾向はクモ以外の風媒生物からも,発見される可能性がある.今回の成果は,本プロジェクトにおける基礎データの一つにあたり,現在クモの様々な行動・能力に関する100年内外の進化とその解析を通して,仮説の検証と新たな理論構築を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクトは順調に成果をあげている.特に島嶼の年代に沿ったクモの行動については次々と新たな発見があり,行動生態学,進化生物学的な本計画のアプローチが上手くいき始めた事を実感している.また蓄積されたデータの相互比較が示す結果は各所でより興味深くなっている.現在は,この中で学術的に重要性の高いもの,他のグループと一部競合している内容について優先的に発表の準備を進めている.一方,本プロジェクトに入ってから協力を受けているロンドン自然史博物館からは,前述の発表論文を期に本格的な人的サポートが開始され,次の投稿への準備はほぼ整っている.自然史博物館の参入は,これまでの作業効率を大幅に向上するきっかけとなっており,今後のワークフローおよび発表スピードの改善につながると期待出来る.
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Strategy for Future Research Activity |
潜在的に研究内容の競合するチームが確認された事から,採集,実験,解析が終わったものに関して,重要性の大きいものから論文を発表する.従って,論文の先見性を確保する事を最優先とし,研究の質を保ちつつ執筆のスピードを上げる必要性がある.この部分に関して,ロンドン自然史博物館との連携をより強化し,これまで筆者に集中していた作業のウェイトを分散させるという方針を進める.当博物館の研究者は本プロジェクトに協力的であり,データベース部門,広報部等との個人的なつながりもすでに構築している.実際この新ワークフローが開始されて以降,本プロジェクトの効率は全体的に底上げされ,今後もこの生産性を維持出来るものと考えている.
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Causes of Carryover |
研究内容の競合する他のチームに先んじて論文を発表する必要があり,時間のかかる野外作業を減らし解析・執筆作業を増やしたため.ただし今回は,後発の他チームよりよりも先に論文を発表出来ただけでなく,この論文によりロンドン自然史博物館との協力体制が深まり,結果としてプロジェクトの進行速度が向上している.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英国中東部に位置するAttenborough Nature Reserveにおける,人工群島・周辺部での野外作業および実験に伴う滞在費.
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Research Products
(4 results)