2015 Fiscal Year Research-status Report
新たな光呼吸抑制機構の解明と作物光合成能改良への応用
Project/Area Number |
15K14638
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上野 修 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70414886)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光呼吸 / アカザ属 / ミトコンドリア / グリシンデカルボキシラーゼ / 葉構造 / 二酸化炭素補償点 |
Outline of Annual Research Achievements |
アカザ属のシロザ(Chenopodium album)、コアカザ(C. ficifolium)、キノア(C. quinoa)等を夏期にビニルハウス内で約1.5ヶ月育成し、光合成・光呼吸特性を比較調査した。最上位葉をエポキシ樹脂に包埋し、光顕および電顕で葉の内部構造を観察した。また、葉組織における光呼吸鍵酵素グリシンデカルボキシラーゼ(GDC)とRubiscoの局在性を免疫組織学的手法により調査した。光合成測定装置を用いてCO2補償点と光合成速度(Pn)を測定した。また、光合成・光呼吸酵素の活性を分光光学的に測定した。 アカザ属の3種は基本的にはC3植物に見られるnon-Kranz型の葉構造を示した。しかし、維管束鞘細胞(BSC)に含まれる葉緑体とミトコンドリアの量には変異があり、シロザはかなり多量のオルガネラを含んでいた。またシロザでは、BSCミトコンドリアは葉肉細胞(MC)ミトコンドリアよりも大型で、その多くが求心的(維管束側)に配置していた。コアカザのBSCも若干この傾向を示した。これらの3種では、RubiscoとGDCはMC、BSC両方の葉緑体とミトコンドリアにそれぞれ蓄積しておりC3的であった。一方、GDCの蓄積密度は、キノアとコアカザではMCとBSCのミトコンドリアで差はなかったが、シロザではBSCミトコンドリアがMCミトコンドリアより高かった。CO2補償点とPnはアカザ属の3種ともにC3植物に特徴的な値を示し、光合成・光呼吸酵素の活性もC3植物に典型的な値であった。 このようにシロザは、ガス交換特性はC3型であるが、BSCにおけるミトコンドリアが発達して求心的に配列し、同時にGDCもBSCに集中して蓄積する傾向があることが明らかとなった。このため、これらの特性はBSCの中で光呼吸により発生したCO2やNH3の一部を回収する機構として働いている可能性が考えられる。また、これら特性はC3-C4中間型の前駆的段階のようにも見えるが、その生理学的意義についてはさらに検討を要す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた本年度の研究を行うことができた。すなわち、シロザおよびその近縁種2種における葉の内部構造、光呼吸酵素の細胞蓄積パターン、光合成・光呼吸酵素の活性測定、およびガス交換特性を解析することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、シロザを生育温度や窒素施肥量を変えて育成し、このような光呼吸活性に影響すると考えられる要因に対して、植物の葉構造や光呼吸特性がどのように反応するのかを検討する。また、アカザ属の他の植物種についても葉の構造と光呼吸特性を解析し、本属植物におけるこれらの特性の変異の実態を調査する。
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