2015 Fiscal Year Research-status Report
師部液糖濃度の日周期リズムが果実発達に与える影響とその制御
Project/Area Number |
15K14647
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河鰭 実之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 教授 (10234113)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 師部液 / 植物工場 / 概日リズム / トマト / 果実糖度 |
Outline of Annual Research Achievements |
果柄によって植物体とつながった末端器官である果実の成長および品質は,果柄を通って果実へ流入する師部液により支えられている.トマトにおける果実の糖濃度は師部液糖濃度と高い相関関係にあり,師部液糖濃度は正午頃にピークとなる日周期リズムを示すことをこれまでに明らかにしてきた.師部液糖濃度は,葉における光合成速度と連動することが予想され,光合成は概日リズムに依存した日変化を示すことも知られている.これらの関係から,師部液糖濃度の日変化は葉における光合成概日リズムに依存していると予想され,果実の品質を高める上で,このリズムの制御が重要であることが示唆される.この研究では,完全人工光型植物工場における栽培を想定し,変則光リズム下においてトマトを栽培し,それにより果実糖濃度および果実成長を制御できる可能性について検討する. まず,従来のLED植物工場環境でトマトを育苗し,苗の葉における光合成産物量の日変化を把握するため,葉のサンプリングによる可溶性糖の分析と,果実糖度計測に実用化されている近赤外光吸収スペクトルを利用した非破壊的なモニタリングとを行った.ホウレンソウなどでは葉内スクロース濃度が日中上昇し夜間低下する日変化を示すことが報告されている.しかし,今回行ったトマトの葉での実験ではそのような変化は明らかにできなかった.その原因として,師部液糖濃度の変化は,単に葉内スクロース濃度と連動しているのではない可能性と,この実験系では光強度が十分でなかった可能性とがあった.そこで,栽培環境を見直し,十分な光強度を得られる栽培装置の整備を行った.現在,変則的な光周期リズム,および光受容体突然変異体における師部液糖濃度,光合成,葉内糖含量の日変化を調査する実験を行っているところであり,これらの実験により光周期リズムが果実品質と果実発達に与える影響を明らかにしていく計画である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トマトは比較的強い光を必要とする作物であるため,従来の比較的弱光の植物工場では十分な光合成が行われず,果実糖度が高まらないだけでなく,師部液糖濃度に明瞭な日周期変動が見られない可能性が高い.実際に,葉内の糖含量の日変化を従来の植物工場条件で栽培したトマト苗で計測したところ,明瞭な日変化は認められなかった.そこで,トマトを栽培できる十分な光強度を有する完全人工光型植物工場の開発を行った.今回開発した新たな構造の植物工場は,高性能の遮熱素材,省エネ型の高輝度LED,湿式調湿を利用して安定的に相対湿度60%,光合成有効光量子束密度500μmol m-2 s-1 を達成している.現在は,複数の日周期サイクルでの実験を並行して行えるよう栽培室の調整とテスト栽培を行っている段階である.次のステップの実験として多様な日周期リズムでの実験を始めているところである.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,当初の計画通り,野生型および光受容体突然変異体のトマトを用い,果柄滲出液の糖濃度の日変化と光周期,概日リズムとの関連を調べる計画である.また,葉の糖濃度の日変化を調べた実験において明瞭な日変化がみられなかった原因として,その実験において光合成が不十分であった可能性があるが,それとともに,葉におけるスクロース濃度と師部液糖濃度が必ずしも連動せず,ローディングの過程における概日リズムが重要である可能性もあった.デンプン合成,分解酵素の日周期リズム,スクローストランスポータの日周期リズムにも着目して,遺伝子解析を進める.
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