2015 Fiscal Year Research-status Report
リンゴ斑点落葉病菌のAM毒素生合成遺伝子クラスターの起源を探る
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15K14662
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柘植 尚志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30192644)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物病原菌 / 菌類 / 植物 / 病原性 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、リンゴ斑点落葉病菌(Alternaria alternata apple pathotype)の宿主特異的AM毒素の生合成遺伝子(AMT)クラスターを同定するとともに、12個のAMT遺伝子のうち5~7個の相同遺伝子が、系統学的に離れたMycosphaerella属菌のゲノム中にクラスターとして存在することを見出した。本研究では、コムギ葉枯病菌(M. graminicola)を用いて、リンゴ斑点落葉病菌の病原性進化をもたらした起源遺伝子群の機能を探ることを目的とする。今年度は、主に以下の研究を実施した。 リンゴ斑点落葉病菌とコムギ葉枯病菌の相同遺伝子の機能を比較するために、リンゴ菌のAMT破壊株のコムギ葉枯病菌相同遺伝子(MgAMT遺伝子)による変異相補を試みた。MgAMT遺伝子のプロモーターでは、リンゴ斑点落葉病菌で発現しない可能性が考えられた。そこで、約1.0 kb のプロモーター配列と約0.5 kbのターミネーター配列を含む各AMT遺伝子をクローン化し、そのエクソン・イントロン領域をMgAMTに置き換えた変異相補ベクターを作製した。リンゴ斑点落葉病菌のAMT4、AMT5またはAMT6破壊株にそれぞれの相補ベクターを導入したところ、AMT5とAMT6の破壊株ではAM毒素生産性が回復したが、AMT4破壊株では回復しなかった。 コムギ葉枯病菌のMgAMT領域を含む約90 kbのゲノム領域の構造を解析し、7個のMgAMT遺伝子を含め第2次代謝に関連する可能性がある13個の遺伝子がコードされていることを見出した。接種後経日的に採取したコムギ葉からRNAを抽出し、この領域にコードされる25個の遺伝子の発現をRT-PCRによって検出した。その結果、病徴が出現していない感染初期から、二次代謝関連遺伝子群が発現していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リンゴ斑点落葉病菌のAMT変異株のコムギ葉枯病菌のMgAMTによる変異相補実験によって、AMT5とMgAMT4、AMT6とMgAMT6が同じ機能を、AMT4とMgAMT4が異なる機能を持つことが示された。AMT5とAMT6はアミノ酸修飾酵素を、AMT4はペプチド合成の最終段階を触媒する酵素をそれぞれコードしている。以上の結果は、コムギ葉枯病菌のMgAMT領域がAM毒素と化学構造が類似したペプチド第2次代謝産物の生合成に関与することを示唆した。 コムギ葉枯病菌のMgAMT領域を含む約90 kb領域には、25個の推定遺伝子がコードされている。それらのデータベース相同性解析によって、7個のMgAMT遺伝子を含む13個が第2次代謝に関与すると推定した。この領域の遺伝子のコムギ感染時における発現をRT-PCRによって検出したところ、病徴が出現していない感染初期から二次代謝関連遺伝子群が転写され、病徴発現に伴って転写レベルが増加する傾向が認められた。以上の結果は、MgAMT領域によって生合成されるペプチド第2次代謝産物が植物感染に関与することを示唆した。 以上のように、今年度は、リンゴ斑点落葉病菌とコムギ葉枯病菌の相同遺伝子の機能比較、コムギ葉枯病菌のMgAMT領域の植物感染時における遺伝子発現解析について、当初予定した研究をほぼ実施することができ、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、リンゴ斑点落葉病菌のAMT破壊株のコムギ葉枯病菌相同遺伝子による変異相補実験によって、両菌の相同遺伝子の機能(酵素活性)を比較評価する。 コムギ葉枯病菌のMgAMT領域の機能を解析するために、MgAMT破壊株を作出する。予想産物であるペプチドの合成を完全に抑制するために、非リボソーム型ペプチド合成酵素遺伝子MgAMT1と構成アミノ酸生合成酵素遺伝子MgAMT6をターゲットとする。葉枯病菌は、培地上での成育が非常に遅く、扱いにくい菌ではあるが、アグロバクテリウムを用いた形質転換系が報告されている。バイナリーベクターを用いて、各遺伝子の置換型遺伝子破壊ベクターを作製し、アグロバクテリウムを用いて葉枯病菌に導入し、遺伝子破壊株を作出する。遺伝子破壊株のコムギに対する病原性、各種培地での成育、胞子形成、酵母用細胞形成などを検定し、MgAMT領域によって生合成されるペプチド第2次代謝産物の病原性における機能について検証する。 MgAMT領域に存在する遺伝子の各種培地での発現レベルをqRT-PCRによって調査し、同調的に高発現する培地を選抜する。選抜した培地で野生株、MgAMT破壊株を培養し、多波長検出HPLC解析とLC-MS解析によって培養液中の代謝産物を比較、MgAMT産物候補の探索を試みる。 以上の研究結果を総合的に検討することによって、AM毒素生産性の獲得によるリンゴ斑点落葉病菌の病原性進化をもたらした、Mycosphaerella属菌の起源遺伝子群の機能を探る。
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[Journal Article] The global regulator LaeA controls biosynthesis of host-specific toxins, pathogenicity and development of Alternaria alternata pathotypes2016
Author(s)
Takao, K., Akagi, Y., Tsuge, T., Harimoto, Y., Yamamoto, M., and Kodama, M.
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Journal Title
Journal of General Plant Pathology
Volume: 82
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] Evolution of pathogenicity controlled by small dispensable chromosomes in Alternaria alternata pathogens2015
Author(s)
Tsuge, T., Harimoto, Y., Akagi, Y., Hanada, K., Kodama, M., Akimitsu, K., and Yamamoto, M.
Organizer
US-Japan Cooperative Science Seminar "Molecular Contact Points in Host-Pathogen Co-evolution”
Place of Presentation
高松コンベンションホール,香川県高松市
Year and Date
2015-10-25 – 2015-10-29
Int'l Joint Research / Invited
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