2015 Fiscal Year Research-status Report
低フィチンダイズを利用したリン酸資源枯渇に対応した農業技術の開発
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15K14678
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
実岡 寛文 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70162518)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フィチン酸 / リン酸 / リン酸資源枯渇 / 鶏糞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイズなどの穀類は、多くが家畜用飼料原料として利用されている。こうした植物性飼料原料には有機態リン酸である「フィチン酸(ミオイノシトール6リン酸)」が多く含まれ、一般的な普通ダイズでは、全リンのうちフィチン態リンの占める割合は75~90%である。単胃動物の豚や鶏では、フィチン酸分解酵素フィターゼが消化管で作れないため、穀類の多くのリン酸は、吸収・利用できずに糞中に排泄されている。リン酸は、動物にとって骨の形成やエネルギー代謝に必須な元素であるため、家畜のリン酸不足を防止する手段として、無機リン酸を飼料に添加することが一般的に行われている。しかし、無機リン酸の原料であるリン鉱石は50~100年で枯渇すると言われている。本研究では、低フィチン穀類を開発し、それを利用することによって単胃動物のリン酸吸収利用率を高めて飼料に添加する鉱物性リン酸を低減することにより、枯渇が心配されている有限なリン酸資源を節約する技術を開発することを目的としている。 27年度は、低フィチンダイズの基本特性を解析すると同時に、生産性の高い低フィチンダイズを選抜することを目的に、全リン酸のうちフィチン態リン酸の占める割合が75~90%の普通栽培品種と、報告者が育成したフィチン態リン酸の割合が25~30%の低フィチンダイズ30系統、広島大学内の精密実験圃場に栽培した。その結果、普通栽培品種の収量が310kg/10aであったのに対し、低フィチン系統では290~410kg/10aであり、低フィチンダイズでも普通栽培品種と遜色がないか、あるいはそれ以上の収量が得られた一方で、系統間で収量に大きな差が見られた。さらに、高フィチンおよび低フィチンダイズで調製した濃厚飼料によるブロイラー飼育実験の結果、低フィチンダイズで飼育した鶏から排泄された鶏糞は、水溶性リン酸濃度の割合が高く、植物が吸収・利用しやすい有効態リン濃度が高いことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西日本におけるダイズ栽培は、5月下旬から6月上旬・中旬に播種し、7月下旬から8月上旬に開花期を迎え、10月中旬から11月下旬の間に収穫する。27年度は、ダイズ栽培期間に台風の来襲もあったが、ダイズには倒伏などの被害もなく、また、干ばつが頻発する夏季においても適度な降雨があり、例年になくダイズは順調に生育し、24系統全てについて、生育特性と収穫時の収量調査を解析することができた。その結果、低フィチン系統の収量は普通栽培品種に比べて高い系統もあり、系統間差が把握できたと同時に、来年度以降の圃場栽培実験のための種子数が十分に確保できた。 また、低フィチン系統と普通ダイズ品種で作成した濃厚飼料を給与した鶏の飼育実験の結果、低フィチン鶏糞が多く採取でき、その鶏糞の化学分析およびそれが植物の生育にどのような影響を及ぼすかを解析する栽培実験のための準備が整った。 以上の結果から、申請時に立案した27年度計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は、27年度の実験結果にもとづいて、さらに以下の実験を行う。 1)27年度に選抜した10系統を5月下旬から6月上旬に圃場に播種し、その後栽培管理を行いながら、開花期と収穫期に生育特性および子実収量を調査し、安定して収量が確保できる系統を選抜する。 2)畑に施肥するリン酸量を低減しリン資源の有効利用を検討するために、低フィチン系統の中から施肥リン酸の少ない低リン条件下でも生育の低下が見られない低リン酸耐性系統を選抜する。 3)前年度までに採取した低フィチン鶏糞の炭素・窒素濃度比、フィチン態リン酸・無機リン酸・全リン濃度、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、銅、ニッケルなどのミネラル濃度、窒素無機化率および水抽出、クエン酸抽出リン酸濃度の違いなどを普通の鶏糞と比較し、低フィチン鶏糞の特性を詳細に明らかにする。 4)低フィチン鶏糞と高フィチン鶏糞を施肥した土耕栽培試験を継続して行い、両試験区の土壌から流出される硝酸態窒素および無機態リン酸濃度を測定し低フィチン鶏糞の環境への影響を評価する。さらに、両鶏糞区においてイタリアンライグラスあるいはコマツナを栽培し、植物の生育量、窒素、リン酸、カリウム吸収量などを調査し、低フィチン鶏糞施肥による植物の生育および品質へ影響を解析する。
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