2015 Fiscal Year Research-status Report
大腸内の菌叢構造への習慣的多量飲酒の影響解明と飲酒関連大腸発がんモデルの提案
Project/Area Number |
15K14682
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中山 亨 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80268523)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 菌叢構造 / アセトアルデヒド / アルコール依存症 / 腸内細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸内の菌叢構造への習慣的多量飲酒の影響の解明と飲酒関連大腸発がんのモデルを提案するにあたり,まず,習慣的多量飲酒による大腸発がんのリスク増大へのAcHや腸内細菌の関わりについての手がかりを得るため,アルコール依存症患者(ア症患者)と非患者の糞便の菌叢構造を比較した.大腸がんは上皮性の悪性腫瘍であり,大腸粘膜近傍は好気的であるとされていることから,糞便分離微生物のエタノール代謝能を好気的条件下で評価した.ア症患者群(治療のために来院した断酒後まもない患者16名)と非患者群(40名)の糞便の菌叢構造を,次世代シーケンサーを用いた16S rDNAアンプリコン解析により比較した.その結果,糞便菌叢の菌種数については両群で有意差が認められなかったが,菌叢構造の個体間多様性はア症患者群で有意に増大していることがわかった.詳細な解析の結果,ア症患者では,大腸内優占種(BacteroidesやRuminococcusなど)の存在比が有意に減少し稀少菌種の存在比が有意に増大しており,こうした変化がア症患者における糞便菌叢構造の多様性の増大に反映されていると考えられた.一方,当初の予想に反して,患者の糞便中のAcH濃度は非患者の同濃度よりも有意に低く,またエタノールからのAcHの生成速度も,ア症患者の糞便の方が非患者の値より有意に小さいことがわかった.ア症患者の糞便から500以上の嫌気性細菌を分離してそれらの好気的エタノール代謝能を評価したところ,飲酒後の大腸粘膜近傍の好気的条件下でAcHを蓄積する能力をもつ菌種(potential AcH accumulator, PAA)が多数同定され,上述のア症患者の糞便のエタノール代謝能は,糞便中のPAAの存在比に基づいて合理的に説明できた.PAAの多くは偏性嫌気性細菌であることから,PAAによるエタノールからのAcHの生成がPAAの酸化ストレス応答の一環として起こる可能性が考えられた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
便の好気的エタノール代謝を調べた結果,当初の予想と反する結果が得られ,その原因究明に数ヶ月以上の長時間を要した.幸い,その原因究明に要した研究経費は軽微なものであった.原因は究明されたが,予定された研究タスクは次年度にずれ込んだ.研究費の使用を厳格に制御しながらも研究は着実に進捗している.
|
Strategy for Future Research Activity |
PAA種を特定することができたので,これらの細菌種の粘膜上のバイオフィルム形成をいくつかの手法で確認するとともに,酸化ストレス条件下でのこれらの微生物のエタノオール代謝を生化学的・分子生物学的アプローチで調べることにより,モデルの妥当性を検証していく.
|
Causes of Carryover |
便の好気的エタノール代謝を調べた結果,当初の予想と反する結果が得られ,その原因究明に数ヶ月以上の長時間を要した.その原因究明に要した研究経費は軽微なものであった.原因は究明されたが,予定される研究タスクが次年度にずれ込んだため次年度使用額が生じた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
1)大腸粘膜表層定着微生物の選択的採取:大腸粘膜表層定着微生物の取得条件を精密化する.きわめて少量の粘膜表層定着微生物から効率よくゲノムDNAを抽出する方法も検討する.2)PAAの酸化ストレス応答とAcH生成の関連の解析:今回見いだしたいくつかのPAAは,酸化的条件下でのみエタノールを酸化してAcHとNADPH(還元力)を生成する.これらのPAAのアルコール脱水素酵素遺伝子をクローニングし,その酵素機能を明らかにするとともに,その遺伝子発現制御機構を解明する.微好気的条件下で嫌気性微生物が酸素ストレスに適応するためにアルコール脱水素酵素遺伝子を発現させ,アセトアルデヒドを生成するとの仮説を検証する.3)PAAを高頻度に含む細菌種特異的な蛍光プローブを作成し,FISH法によって大腸組織表面を観察し,大腸粘膜に定着するPAA関連微生物のバイオフィルムの存在を立証する.
|
-
[Journal Article] Major Anaerobic Bacteria Responsible for the Production of Carcinogenic Acetaldehyde from Ethanol in the Colon and Rectum2016
Author(s)
Atsuki Tsuruya, Akika Kuwahara, Yuta Saito, Haruhiko Yamaguchi, Natsuki Tenma, Makoto Inai, Seiji Takahashi, Eri Tsutsumi, Yoshihide Suwa, Yukari Totsuka, Wataru Suda, Kenshiro Oshima, Masahira Hattori, Takeshi Mizukami, Akira Yokoyama, Takefumi Shimoyama, and Toru Nakayama
-
Journal Title
Alcohol and Alcoholism
Volume: 未定
Pages: 未定
DOI
Peer Reviewed / Open Access
-
-