2015 Fiscal Year Research-status Report
二枚貝を飛躍的に成長させるプレバイオティクス仮説の検証
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15K14796
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Research Institution | National Fisheries University |
Principal Investigator |
山崎 康裕 独立行政法人水産大学校, その他部局等, 助教 (40598471)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アサリ / アルギン酸 / 種苗生産 / 餌料用微細藻類 / 成長促進 / ナンノクロロプシス / キートセロス / プレバイオティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国で急務とされる激減したアサリ資源の回復を実現するためには、種苗生産の安定化や低コスト化に加え、高機能餌料の安定供給技術の開発が必須である。これまでに筆者らは、アルギン酸(褐藻類などに含有する酸性多糖)がアサリの成長促進成分であることを見出した。本研究では、安価で大量生産可能な微細藻類ナンノクロロプシスとアルギン酸を併用することにより、低コストで飛躍的に餌料効果を向上させる給餌法の開発と成長促進機序の解明を目的とした。 飼育水量が0.5 Lの小規模給餌試験により、微細藻類とアルギン酸の併用効果を検証した。アサリ稚貝の成長が最も良い25℃の飼育条件では、ナンノクロロプシス(20万cells/mL)にアルギン酸分解物(4 mg/L)を添加した給餌区において、ナンノクロロプシス単独給餌区を上回る餌料効果が認められた。同様に、ナンノクロロプシスの代わりに海産ミドリムシであるユーグレナを使用した給餌試験において、アルギン酸分解物のアサリ稚貝に対する成長促進効果が認められた。また、アルギン酸の加水分解の有無によるアサリ稚貝に対する成長促進効果を給餌試験により判定した結果、アルギン酸の分解の有無によりアサリ稚貝の成長に差異が認められなかったことから、アルギン酸の分子サイズはアサリ稚貝の成長に影響しないことが示唆された。さらに、アサリ稚貝における糖類の取り込み様式を明らかにするために、蛍光標識グルコース(2-NBDLG)を用いた蛍光イメージングを行った結果、蛍光標識グルコースの添加直後からアサリ稚貝体内において局所的なシグナルが検出されたことから、アサリに摂餌された糖類は短時間で消化器官へ到達することが示唆された。 以上より、ナンノクロロプシスとアルギン酸の併用は、低コストでアサリ稚貝に対する餌料効果を向上できる給餌法として大いに期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究では、安価に大量生産可能なナンノクロロプシスとアルギン酸分解物の併用により、ナンノクロロプシス単独給餌区より高いアサリに対する成長促進効果が得られた。また、海産ミドリムシであるユーグレナにおいても同様の餌料効果が実証されたことから、当初の計画が順調に進展していると判断できる。一方、本研究では、これまで餌料効果が低いと認識されてきたナンノクロロプシスにおいて、キートセロスと同等の餌料効果が認められたことから、今後、ナンノクロロプシスの培養条件毎の栄養成分評価を行う必要がある。 本研究の特筆すべき成果は、安価に大量生産可能なナンノクロロプシスや冬季の低水温環境下において増殖可能なユーグレナとアルギン酸分解物を併用することにより、アサリ稚貝に対する十分な餌料効果を明らかにした点である。現段階では、小規模給餌試験による効果実証のため正確な試算を行うことはできないものの、ナンノクロロプシスやユーグレナとアルギン酸分解物を併用した給餌は、高栄養であるが生産コストの高いキートセロスやパブロバなどの餌料を給餌する場合と比べ、大きなコスト削減につながると期待できる。さらに、計画していたアサリ稚貝の糖類取り込み機構と局在部位の可視化、および実用規模の給餌条件の検討についても順調に推移しており、次年度実施予定であるアサリ消化器官内の細菌叢解析に関する予備試験も今年度中に実施することができた。 以上のことから、当該年度の研究成果は、低コストでアサリ稚貝に対する餌料効果を向上できる給餌法の開発に貢献するものであり、研究は当初の計画通りに遂行できたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
実用規模試験による微細藻とアルギン酸分解物を併用した給餌法の有用性検証では、初年度の研究成果を踏まえ、ナンノクロロプシスとアルギン酸分解物を併用した給餌によるアサリの成長促進効果を実用規模で検証し、「劇的な餌料コスト削減」手法を実証する。なお、アサリ種苗生産の状況によっては20 L程度の飼育容量で試験を実施し、実用レベルにおけるアルギン酸分解物の使用方法や注意点等を明確にする。 天然海域および室内実験試料の細菌叢解析 (次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析) では、種苗生産によって得た殻長15 mm前後のアサリ稚貝を用いた小規模給餌試験を実施し、ナンノクロロプシス給餌区およびナンノクロロプシスとアルギン酸分解物給餌区のアサリ殻長、軟体部重量、生残率などの測定を実施するとともに、アサリより桿晶体などを摘出する。一方、山口県内に設けた複数のアサリ資源調査定点に殻長15 mm前後のアサリ稚貝をゲージにより周辺生物から隔離して放流し、室内実験と同様、各定点のアサリ殻長、軟体部重量、生残率の測定を実施した後、アサリより桿晶体などを摘出する。得られた試料から、16S rRNA領域増幅用プライマーによりPCR増幅を行い、Miseq次世代シークエンサーによる16S rRNA細菌叢解析を実施する。得られた解析結果から、室内実験区における細菌叢の差異を比較し、プレバイオティクスとして機能していると推定されるアルギン酸が細菌叢を変え得るのかについて検証する。また、各天然海域における細菌叢の差異を比較し、二枚貝の生理生態における細菌の役割や細菌叢の解析でアサリ活力を判定し得るのかについて検証する。
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Causes of Carryover |
給餌試験が順調に推移したため、当初の計画より若干微細藻類購入費が安価となったことから、当該助成金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
生じた助成金は、翌年度分として請求した除籍金と合わせ、細菌叢解析費用に利用する予定である。
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