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2015 Fiscal Year Research-status Report

貝の引っ越し機能を利用する付着生物防除法開発

Research Project

Project/Area Number 15K14801
Research InstitutionThe University of Tokyo

Principal Investigator

井上 広滋  東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (60323630)

Project Period (FY) 2015-04-01 – 2017-03-31
Keywords付着生物 / 足糸 / 酵素 / 生理 / イガイ / コラゲナーゼ
Outline of Annual Research Achievements

本研究の目的は、船舶や養殖施設などの海中構造物に付着してそれらの機能を阻害する付着生物を、それら生物自身が持つ「引っ越し」の機能を利用して阻害する技術の開発である。
平成27年度はまず、イガイ類を様々な環境変化に曝し、移動を誘導できるかどうかを検討した。代表的な付着汚損種であるムラサキイガイについて、高温、塩分変化、干出、捕食者との共存、給餌停止などの条件に12時間以上曝露したが、どの条件でも全く移動は起こらず、これらの条件下ではムラサキイガイはむしろ殻を閉ざして耐えることがわかった。逆に、ストレスを与えない対照区において移動が観察された。
そこで、通常条件で飼育している個体についてインターバルタイマー撮影により連続観察したところ、二種類の移動方法を撮影することに成功した。ひとつは、足の筋力で必要のない足糸を1本引きちぎる方法である。この方法は、ごく短距離の移動や、姿勢を変える時に使われると考えられる。もうひとつは、足糸を束ねる「幹」の部分を切断することで、足糸をすべて切り離してしまう方法である。この方法では、体が基盤から完全に離れてしまうため、大きく移動する際に用いられると考えられる。幹は太く強靭なため、筋力で引っ張って切断することは困難と考えられた。しかし、画像を見る限り、切断部位に接している組織は足の根本部のみであり、そこには切断に利用できるような硬組織は存在しない。従って、幹を分解する酵素等が存在する可能性が示唆された。
イガイが切断した足糸を採集して、走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、切断面において、繊維状の組織が溶解しているように見える像が得られ、やはり酵素の関与が示唆された。
さらに、幹と接触している足の根本の組織を採集し、RNA-seq解析に供した。得られた配列の中には、4種のコラゲナーゼ様配列が含まれていた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

本年度は、ムラサキイガイと並行して、経験的に移動が頻繁に起こることがわかっているシチヨウシンカイヒバリガイを実験に用いるために、海洋研究開発機構の研究船「かいよう」研究航海KY15-07において無人潜航艇「ハイパードルフィン」を用いて採集を試みたが、ちょうど生息地が黒潮本流直下であったため、潜航艇が潮流に流されて定位できず、実験に必要な個体数の確保ができなかった。この点については計画通りにはいかず、すでに保管していたストレス曝露個体についての既知のストレス応答遺伝子の発現解析のみにとどまったが、その一部を論文として出版することができた。
しかし、その分ムラサキイガイについて集中的に実験を行った。ムラサキイガイについても、ストレスに曝されると移動を始めるという当初の仮説が否定され、むしろ通常条件で移動が頻繁に起こることがわかった。しかし、そのことに気がついたために、通常条件での観察に集中することで、移動方法、すなわち足糸の切断方法には2通りあることを明らかにすることができた。さらに、切断された幹の電子顕微鏡観察と切断時の画像により、酵素の関与とその分泌部位を推察することができたため、次年度に予定していたRNA-Seq解析を一部開始した。その結果、コラゲナーゼ様配列を得ることができた。
以上のように、ムラサキイガイについては、仮説を正しい方向に修正することができ、計画を前倒しで進めることができているため、計画以上の進捗であると判断した。

Strategy for Future Research Activity

シチヨウシンカイヒバリガイについては、今年度も採集と生息環境の測定を試みるとともに、もしそれらが十分にできなかった場合には、これまでに採集した冷凍サンプルについて、ムラサキイガイとの配列や発現部位比較を行う。
ムラサキイガイの移動誘起条件については、ストレス曝露中には動かないことがわかったが、本種が生息する潮間帯の条件を考えると、より長い曝露により、あるいは、ストレス曝露後に通常条件に戻すと活発に移動する可能性もあるため、引き続き検討を続ける。
ムラサキイガイの足糸切断に関わる遺伝子については、まずコラゲナーゼ様配列を単離し、その発現特性を明らかにする。そして、発現部位が足の根本に特異的なものがあれば、in situハイブリダイゼーション等による詳細な分布の解析や、幹分解活性の測定に進める。また、同時に、コラゲナーゼ以外の配列についても、BLAST解析により関連のありそうな配列の探索を行う。
足糸切断に重要である可能性が高い配列が発見された場合、その他のイガイ類や足糸を持つ二枚貝について、同様の配列の分布を解析し、当該配列の一般性について検討を進める。

Causes of Carryover

計画していた実験のうち、シチヨウシンカイヒバリガイについては実験試料が十分に入手できなかったために、予定通りには進められなかった。その分、既存サンプルのストレス応答遺伝子の解析を実施するとともに、ムラサキイガイのRNA-Seq解析を一部前倒しで進めたが、その費用は関連する別資金で賄うことができた。

Expenditure Plan for Carryover Budget

シチヨウシンカイヒバリガイについては、平成28年5月に新青丸KS-16-5航海で再度採集を試みる。また、その際には、同種がコロニーを作る環境についての解析を試みる予定である。
RNA-Seq解析については、まだ一部の分析しか実施できていないため、部位別・条件別の解析を次年度実施する予定である。

  • Research Products

    (3 results)

All 2016 2015 Other

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results) Presentation (1 results) Remarks (1 results)

  • [Journal Article] Effect of sulfide, osmotic, and thermal stresses on taurine transporter mRNA levels in the gills of the hydrothermal vent-specific mussel Bathymodiolus septemdierum2016

    • Author(s)
      Nakamura-Kusakabe I, Nagasaki T, Kinjo A, Sassa M, Koito T, Okamura K, Yamagami S, Yamanaka T, Tsuchida S, Inoue K
    • Journal Title

      Comparative Biochemistry and Physiology A

      Volume: 191 Pages: 74-79

    • DOI

      10.1016/j.cbpa.2015.09.013

    • Peer Reviewed
  • [Presentation] ムラサキイガイの足糸切断機構2015

    • Author(s)
      今井さくら・佐々三依子・井上広滋
    • Organizer
      平成27年度日本水産学会秋季大会
    • Place of Presentation
      東北大学(宮城県仙台市)
    • Year and Date
      2015-09-22 – 2015-09-25
  • [Remarks] Research

    • URL

      http://darwin.aori.u-tokyo.ac.jp/inouelab/research.html

URL: 

Published: 2017-01-06  

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