2015 Fiscal Year Research-status Report
RNA干渉法を用いた母性mRNAノックダウンによる不稔化エゾアワビ種苗の作出
Project/Area Number |
15K14802
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
竹内 裕 東京海洋大学, その他部局等, 准教授 (70418680)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アワビ生殖腺 / トランスクリプト―ム解析 / RNA干渉 / vasa / dmc1 / 不妊化 / 不稔化 / 生殖細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
韓国・中国ではエゾアワピの大規模な海面養殖事業が行われているため、安価な輸入アワビが国内のアワビ生産地に対する脅威となっている。国内では、エゾアワビの陸上養殖について水処理や廃熱利用等のハード面での陸上養殖技術開発が進む一方、ソフト面すなわち養殖に適したアワビ品種の開発はほとんど行われていない。アワビ養殖において春・秋の産卵期は鬼門であり、2歳(殻長7cm)以上の個体では、産卵期は身痩せしハンドリングに弱くなるうえ、水揚げ後に卵巣が肥大化し大量蕊死する例が知られている。さらに、アワビ人工稚貝は、天然稚貝とは異なり、1歳(殻長4cm)でも排卵・排精が可能なまでに成熟する。そこで、本研究では、性成熟に起因する成長停滞や斃死を回避することで高成長・高生残な養殖用品種を開発するため、RNA干渉法を用いたアワビ不稔化技術の開発を行なっている。 これまで、アワビ受精卵内に蓄積される母性RNAのなかから、生殖細胞の形成に関与することが予想されるvasaおよびnanosを単離し、これらを標的としたRNA干渉を実施してきた。H27年度は、dsRNAを注入した母貝に対し、注入後6時間以降に産卵誘発を行い、得られた受精卵で標的遺伝子のmRNA量が50~90%減少することを確かめた。そのほか、アワビ生殖腺および未受精卵を用いたトランスクリプトーム解析から、RNA干渉によるアワビ不稔化を達成するための新たな標的遺伝子(生殖細胞関連遺伝子)の候補を探索した。特に、無脊椎動物ではこれまで同定されていないdead end遺伝子(dnd)の単離を試み、脊椎動物のdndに最も類似したアワビのホモログ遺伝子が、アワビの初期卵母細胞で発現していることを突き止めた。また、減数分裂マーカーである抗ヒトdmc1抗体を用いて、アワビ精原細胞を染色することが可能であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
産卵直前のアワビ母貝にdsRNAを注入することで、卵母細胞内でRNA干渉を誘起し、標的mRNA量を減少させたアワビ受精卵を生産する過程までは再現性高く実施できることが確かめられた。しかしながら、RNA干渉を経て生産した稚貝において、期待される表現型(すなわち、生殖細胞の欠損)を確認するまでには至っていない。これを解決するために次項に示す3つの方策(免疫染色による生殖細胞欠損型の早期判定法、RNA干渉の標的遺伝子の変更、ゲノム編集技術の利用)を立て研究を推進している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.免疫染色による生殖細胞欠損型の早期判定法:H27年度には、抗ヒトDMC1抗体を用いた蛍光免疫染色によりアワビの精原細胞を識別可能であることを示した。ウニでは、同抗体を用いて、初期胚内で生殖細胞の起源となる細胞を標識できることが報告されている。今後、アワビにおいても初期胚を用いて同様の実験を行い、始原生殖細胞あるいはその起源となる細胞の局在および数を把握できるようにすることで、生殖細胞欠損型の早期判定法を達成する。
2.RNA干渉の標的遺伝子の変更:これまでRNA干渉の標的として用いてきたvasa遺伝子は、広範の動物種において生殖細胞に特異的に発現する遺伝子であることが知られているが、無脊椎動物および魚類の初期胚では腹側の分化に関与することも知られており、本研究におけるRNA干渉の効果がアワビ胚の形態形成異常を引き起こし、生残性の不稔化個体が得られにくい状況を生み出している可能性がある。そこで、RNA干渉の標的遺伝子を母性mRNAのみに限定することなく、より生殖細胞に限局して発現する遺伝子を標的とすることで、不稔化個体の生産効率の向上を実現したい。新たな候補遺伝子として、dnd遺伝子およびdmc1遺伝子のアワビホモログに対するRNA干渉試験を実施し、その効果を判定する。
3.ゲノム編集技術の利用:これまでの実験で、アワビ成熟卵巣内に注入した2本鎖合成RNAは、卵母細胞内に取り込まれることが確認されている。そこで、同様に合成RNAの細胞内への注入により、目的遺伝子の改変あるいは機能阻害が可能なCRISPR/CAS9法を用いて、生殖細胞の分化形成に必須な遺伝子を改変可能であるかを調査する。ゲノム編集による改変の標的遺伝子は、減数分裂に必須と考えられるdmc1遺伝子とする。
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