2015 Fiscal Year Research-status Report
イヌの悪性腫瘍のゲノム解析による臨床ゲノム診断法の確立に向けた先駆的研究
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15K14864
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 学 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (70376606)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 臨床がんゲノム診断 / イヌ / トランスレーショナルリサーチ / ゲノム治療 / オーダーメイド医療 / がん体質 / マルチプレックスPCR / 診断型シークエンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、臨床獣医がん研究領域において診断型の次世代型シークエンサーを用いたがんゲノム解析のプラットホームの構築を主な目的とした。まずは、臨床症例を用いたがんゲノム解析を行うためのサンプル採取工程の構築を行い、主に手術症例からのサンプル採取・保存法を確立した。次に、採取サンプルからのゲノム抽出法の検討を行い、固形腫瘍からの安定的な高い品質を有すゲノムDNAを得ることが可能となった。 ゲノム解析を行うに当たり、標的とするがんゲノムを決定するためにがん関連分子を様々ながんゲノム・遺伝子関連情報を用いて選抜を行い、本研究で対象にするがん関連分子群の標的ゲノム領域の選定を行った。また選定したゲノム領域のライブラリー作成に関して、マルチプレックス法を用いたPCRを用いたライブラリー作成により多数の標的ゲノム配列由来のPCR産物の効率的な増幅を検討した結果、同方法を用いて効率良く増幅を行うことが可能となり、ゲノム解読に適切なライブラリーの作成法を確立した。 上述のライブラリーを用いて、採取したがんゲノム解読を行い、各ライブラリーで安定したシークエンスタグ数、十分なカバレージ、ターゲットゲノム領域への高いマップ率を確認している。また、これらのシークエンスデータを用いたゲノム変異解析において、正常部位と比較したがん組織内のみで検出される一塩基変異、ゲノム増幅、ゲノム欠損等が抽出され、各臨床がん症例でのゲノム変異の詳細を明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イヌ臨床腫瘍症例の採取として、平成27年度の予定として、臨床がん症例の採取であるが、約180症例のサンプルを採取することができた。がんの種類の内訳として当初予定していたがんの種類は、手術症例に左右されるため予定した種類どおりには採取できていないが、ある程度症例数の確保できたがん種を対象に解析を進めている。 マルチプレックスPCR法を用いた次世代型シークエンサー用ライブラリー作成として、診断型の次世代型シークエンサーを用いたがんゲノム解析を行うにあたり、既知のがん研究情報を元にがん関連分子の選別を行った結果、約180種類のがん関連遺伝子群を候補として絞り込みを行うことができた。また、これらのがんゲノム解析候補遺伝子群のライブラリー作成を、マルチプレックスPCR法に基づいてPCRプライマーのデザインなどを検討し、最終的に1度のPCR反応で数千種類のPCR産物を作成することが可能となった。 診断型シークエンサーでのゲノム解読データを元にしたゲノム解析として、上述の研究工程に基づいてイヌ乳腺腫瘍臨床例6例のゲノム解読を行った結果、十分なゲノムデータ量が得られ、イヌゲノムへのマップ率をはじめとして事後のゲノム解析に十分な質よび量が確認できた。ただし、一部では十分なシークエンスタグ数が得られていないため、改良の余地が見受けられた。これらの解読データを用いたがんゲノム解析の結果、乳がんに関連するゲノム変異の検出し、このゲノム変異が同遺伝子への影響を予測することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、まず、臨床がん症例採取件数の追加を行う予定である。H27年度でイヌの様々ながん種の採取に成功しているが、同一がん種においてある一定量以上のサンプル採取が進んでいない。各症例での個別のがんゲノム解析は可能であるが、ある任意のがん種の傾向を解析することは現時点の症例数では非常に難しい。この点を打開するために、各がん種10症例程度を目標に引き続き採取を行う予定である。つぎに、がんゲノム検体のゲノム抽出精度の上昇である。昨年度行った次世代型シークエンサーを用いたがんゲノム解読時に、一部のサンプルにおいて解析に必要な十分なシークエンスタグ数が得られずに、再解析が必要な場合があり、このような事態が起こることにより貴重な臨床検体由来サンプルを失う可能性がある。そこで、がん組織からのサンプル採取・保存法からゲノム抽出までの再検討を行うことでさらに効率良く高品質なゲノムが得られるような改良を行う予定である。最後に、上述のように各がんの種類で一定量の症例数の採取と共にがんゲノム解読を行い、各がん種で共通する特異的なゲノム変異を抽出し、他のがん種での同ゲノム変異の有無や、変異による遺伝子やアミノ酸置換等の予測を行う。これらの結果より、新たながんの分子メカニズムの発見、既知の分子標的薬の標的部位での変異発見による分子標的薬を用いた新規化学療法の奏効性の予測、がん種と犬種でのがん関連ゲノム変異の相関解析の探索により、診断型シークエンサーを用いた実際のゲノム診断法の確立や分子標的薬の導入による抗がん剤療法の実践によるがん治療への応用に貢献することにより、がんの治癒率の上昇を目指す。
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Causes of Carryover |
H27年度はおもに本研究の一連の研究プラットホームの構築に研究の大半を使用したため、また解析対象のがん種が手術検体として予定以下のサンプル数しか採取できなかったことより、当初予定していたがん検体のシークエンス解読数と実際に解読をおこなったがんサンプル数が異なったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現時点で解析に必要ながんゲノム情報が得られていないために、引き続き臨床がんサンプルの採取を行うとともに、サンプルからのゲノムDNA抽出、ライブラリー作成、ゲノム解読に関する一連の工程においてライブラリー作成やシークエンサー稼働用消耗品が必要となる。また、これらのがんゲノムデータの包括的な頻度解析等を実行するにあたりコンピュータープログラムの作成や情報処理環境整備用の費用が必要となる。さらに、得られたがんゲノム変異とがん病態の相関を検討するために、網羅的な遺伝子発現解析、免疫組織科学染色、western blotting、抗がん剤投与試験などの分子腫瘍学的実験が必要となる。加えて、上述の研究成果の学会発表や論文投稿への費用が必要となる。
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Research Products
(1 results)