2015 Fiscal Year Research-status Report
マウス4倍体ES細胞を用いた哺乳類独自の発生システムの探索
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15K14880
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
加納 聖 山口大学, 共同獣医学部, 准教授 (40312516)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 4倍体 / マウス / ES細胞 / 分化能 / ゲノム倍加 / 多倍体 / キメラ胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノムセットを3個以上持つ多倍体は、魚類や両生類において正常な個体として発生が可能である一方、哺乳類において4倍体などの多倍体胚は胎生致死となる。申請者は最近、マウス4倍体胚盤胞から4倍体ES細胞の樹立に成功するとともに、マウスES細胞はゲノムが倍加しても胚性幹細胞としての基本的性質を持つことを明らかにした。当該年度では申請者らが樹立したマウス4倍体ES細胞をさらに詳細に解析することによって、哺乳類における多倍体胚の正常な発生条件の探索を行った。まずこれまでに樹立したマウス4倍体ES細胞は複数の胚盤胞期のマウス胚から樹立していたが、ゲノム倍加による性染色体への影響などをより詳細に解析するために、1個の胚盤胞期胚からマウス4倍体ES細胞の樹立を行い、雌雄由来それぞれの複数ラインの4倍体ES細胞を樹立した。マウス4倍体ES細胞の生体内での多分化能を解析するために、テラトーマの形成実験を行い、テラトーマを組織化学的に解析したところ、外胚葉・中胚葉・内胚葉の三胚葉への分化誘導が確認され、マウス4倍体ES細胞は分化能を有することを明らかにした。また、マウス4倍体ES細胞の試験管内での多分化能を解析するために胚葉体の形成を行い、三胚葉への分化誘導が起こることがわかった。Oct3/4とNanog遺伝子のプロモーター部位のメチル化解析をバイサルファイト法を用いてエピゲノム解析を行ったところ、4倍体ES細胞では2倍体ES細胞と同様にこの領域はほとんどメチル化されておらず、遺伝子発現抑制が起こっていないことがわかった。さらにEGFP陽性4倍体ES細胞と2倍体胚桑実胚の集合キメラ胚を作成したところ、胚盤胞期胚の内部細胞塊において4倍体ES細胞由来の細胞の分布が確認された。この結果によって4倍体ES細胞は将来胎子となりうる内部細胞塊の一部として機能しうる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は以下の項目について研究を行い、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。(1)新たなマウス4倍体ES細胞のライン樹立:これまでに樹立したマウス4倍体ES細胞は複数の胚盤胞期のマウス胚から樹立していたが、ゲノム倍加による性染色体への影響をより詳細に解析するために、1個の胚盤胞期胚からマウス4倍体ES細胞の樹立を行い、雌雄由来の4倍体ES細胞ラインを複数樹立した。(2)胚様体形成:マウス4倍体ES細胞の試験管内において多分化能を解析するために胚葉体の形成を行い、三胚葉への分化誘導が起こった。(3)テラトーマ形成:マウス4倍体ES細胞の生体内での多分化能を解析するために、テラトーマの形成実験を行い、形成されたテラトーマを組織化学的に解析したところ、外胚葉・中胚葉・内胚葉の三胚葉への分化誘導が確認され、マウス4倍体ES細胞は分化能を有することがわかった。(4)4倍体ES細胞キメラ胚の作成:EGFP陽性4倍体ES細胞と2倍体胚桑実胚を隣合わせて培養し集合キメラ胚を作成したところ、胚盤胞期胚の内部細胞塊において4倍体ES細胞由来の細胞の分布が確認された。この結果によって4倍体ES細胞は将来胎子となりうる内部細胞塊の一部として機能しうる可能性が示唆された。(5)マウス4倍体ES細胞における特異的発現遺伝子のエピゲノム解析:Oct3/4とNanog遺伝子のプロモーター部位のメチル化解析をバイサルファイト法を用いて行ったところ、2倍体ES細胞と同様にほとんどメチル化されておらず、これらの遺伝子発現が起こっていることがわかった。(6)網羅的遺伝子発現解析:RNAシークエンス法によって4倍体ES細胞と2倍体ES細胞の網羅的な遺伝子発現量の解析を行った。4倍体ES細胞と2倍体ES細胞間の詳細な比較データは現在解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)キメラマウスの作成によるマウス倍体ES細胞の分化能の解析:平成27年度に作出した、EGFP陽性4倍体ES細胞と2倍体胚桑実胚キメラ胚を胚盤胞期胚まで培養し、偽妊娠ICRマウス子宮に移植する。移植したキメラ胚については、4倍体細胞の各部位における寄与率や分布を組織化学的に観察し、4倍体細胞の胚体における発生能や定着能を調べる。(2)エピブラスト幹細胞(EpiSC)の誘導:マウス4倍体ES細胞から、胎子を構成する細胞により近い性質を持つマウス4倍体EpiSC(TEpiSC)の樹立を試み、ゲノム倍加によってEpiSCの樹立しやすさ、あるいは樹立したEpiSCの性質を解析する。またこのTEpiSCを用いて後述のX染色体不活性化などを解析する。(3)1細胞当たりの遺伝子発現量の解析:リアルタイムPCR法を用いて4倍体ES細胞1個あたりの絶対的な遺伝子発現量を解析する。同時に細胞のサイズを測定することによって、ゲノム倍加によって細胞内の遺伝子転写産物の濃度がどのような影響を受けるかについて調べる。(4)細胞周期の解析:4倍体ES細胞は2倍体ES細胞と比較して細胞増殖が遅い傾向があることがわれわれの研究によって明らかとなっている。それぞれの細胞周期(G0/G1期、S期、G2/M期)を測定し、ゲノム倍加によって細胞周期が受ける影響について調べる。(5)X染色体の不活性化:4倍体ES細胞、さらに分化させたTEpiSCにおいて、通常よりも本数の多いX染色体がどのように不活性化されているかについて解析する。(6)細胞周期を中心とした4倍体細胞の正常化:以上の結果をもとに、マウス4倍体胚の発生に影響を与えることが予想される因子を4倍体ES細胞に導入し、上記と同様の方法でキメラ胚ならびにキメラマウスを作出し、哺乳類における多倍体胚の正常な発生条件を探索する。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画通りに予算を使用したが(残額約25000円)、研究最終年度の平成28年度の研究遂行のために調整した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験遂行に必要な消耗品の購入に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)