2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K14892
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 雅京 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (30360572)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 性決定 / 性分化 / 胚発生 / エクダイソン / カイコ / Bmdsx / エクダイソン受容体 / EPPase |
Outline of Annual Research Achievements |
20-hydroxyecdysone(20E)が昆虫の性的二型の分化に関わるとのいくつかの知見に基づき、Loof(1998)は性決定時期における20E量の性差が性分化に決定的な役割をもつと仮説を立てたが、これを支持する証拠は得られていない。そこでまず、カイコ胚子期の20E量やecdysone関連遺伝子の発現量を雌雄間で比較し、ecdysoneと性分化との関係性を明らかにすることにした。LC-MS/MSを用いた測定の結果、産下後7日の雌卵の20E量は雄卵と比べて高い値を示した。これに関連して、母性由来のecdysone conjugateを脱リン酸化し、freeのecsdysone産生に関わるEPPaseが産下後4~5日の雌卵において雄卵より高い発現を示すことが確認された。また、ecsdysone受容体EcRB1やEcRB2、ecsdysone初期応答遺伝子E75Bについても、産下後4~7日目の雌卵において雄卵より高い発現がみられた。これらの遺伝子の発現と性決定カスケードとの関わりを調べるため、雌化遺伝子Femと雄化遺伝子Mascをノックダウンした場合に見られる影響について調べた。その結果、Mascをノックダウンすると、雄卵におけるEPPase, EcRA, EcRB1, EcRB2, E75A, Ftz-F1の発現量が2~4倍程度増加することがわかった。Mascをノックダウンした際に発現量が最も増加したEPPaseをノックダウンすると、上述の遺伝子の発現量は減少した。興味深いことに、EPPaseのノックダウンは雌雄両方におけるBmdsxの発現量を減少させることが判明した。以上これまでの研究成果により、胚発生期における20E生合成遺伝子が性決定カスケードの制御下にあること、また、エクダイソン量の性差やそれに応答する遺伝子群の発現量の性差が、性分化に関わることを示唆する結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、胚子期におけるecdysoneと20-hydroxyecdysone(20E)の量的性差が性決定や性分化に及ぼす影響について調べることによって、Loofが1998年に提唱した「性決定時期における20E量の性差が性分化に決定的な役割をもつ」との仮説を検証することにある。現在までの研究により、雌の胚子期における20E量が雄に比べ相対的に高いこと、またこれに関連して、エクダイソン受容体遺伝子の発現量やエクダイソン初期応答遺伝子の発現量も概ね雌の方が雄に比べ高い値を示すことを明らかにすることができた。しかも、胚子における20Eの前駆体生合成に関わるEPPaseをノックダウンすると、性分化のマスター遺伝子であるBmdsxの発現量が低下することを明らかにすることもできた。興味深いことに、EPPaseの発現量は雄決定遺伝子であるMascの制御下にあることを示唆する結果を得ることができた。以上の結果は、性決定カスケードと20E生合成の間にクロストークがあることを示している。研究開始1年の時点で、Loofの提唱した仮説に沿った実験結果が得られていることから、研究は概ね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究成果により、性分化のマスター遺伝子であるBmdsxの発現量がEPPaseのノックダウンにより低下することが判明した。この事実は、エクダイソンからのシグナルが胚子期におけるBmdsxの発現量を制御する上で重要な働きを持つことを強く示唆している。今年度は、まず胚子期のBmdsx発現制御に関わるエクダイソンシグナル伝達経路を同定する。このために、20Eを注入した胚子におけるBmdsxの発現プロファイルを調べる。また、EcRやE75, Ftz-F1など20Eの受容や初期応答に関連する遺伝子のノックダウンがBmdsxの胚子期における発現量に及ぼす影響を調べる。また、20Eに依存してBmdsxの発現を制御する因子の特定を急ぐ。次に、20Eがカイコの性決定や性分化に及ぼす影響を個体レベルで調べるため、20Eを注射した胚子における生殖巣の形態を観察する他、孵化個体を成虫まで飼育し、生育過程における性分化に異常がみられるか精査する。
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