2016 Fiscal Year Research-status Report
植物と昆虫に共通した共生戦略分子としてのシステインリッチペプチドの機能
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15K14899
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
内海 俊樹 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (20193881)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ブフネラ / アブラムシ / 共生 / システインリッチペプチド / マメ科植物 / 根粒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アブラムシ体内のバクテリオサイトとよばれる共生器官に存在するシステインリッチペプチド(バクテリオサイト特異的システインリッチペプチド=BCR)が、細胞内共生細菌であるブフネラとの共生に必須かどうかを明らかにすることを目的としている。本研究では、ふたつのサブテーマを展開しており、本年度の実績は、次のとおりである。 1.BCRの生理活性の解明 根粒菌の場合、宿主植物のシステインリッチペプチドに対する感受性にbacA遺伝子が関与している。前年度までに、エンドウヒゲナガアブラムシのBCRを合成し、大腸菌MG1655株、及び、そのbacA変異株を被験菌株として、それぞれのBCRの抗菌活性を検討した。しかし、この菌株のbacA遺伝子産物は根粒菌のbacA遺伝子産物とは類似性が低いことが判明したため、新たに被検菌株を探索し、大腸菌BW25113株とそのsbmA遺伝子(根粒菌のbacAタンパク質と88%の類似性を示す)変異株JW00368株を見いだした。両菌株を用いてBCRの抗菌活性を再検討したところ、MG1655株の場合と同様に、BCR1、BCR3、BCR5に強い抗菌活性が見いだされた。また、JW00368株と野生株であるBW25113株のBCRに対する感受性については、現在のところ、再現性を検討中である。本年度は、この再実験を実施するにとどまり、BCRの標的分子を同定する試みには至らなかった。 2.BCR が共生に必須な分子であることの証明の試み 本研究では、植物を介して合成RNAをアブラムシに取り込ませ、BCR遺伝子の発現を抑制し、その効果を検討することを計画している。本年度は、カラスノエンドウなどいくつかのマメ科植物を用いて実験系の確立に着手し、葉柄から植物体内への注入が可能であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初より実験に使用していた大腸菌野生株とその変異株が、研究に最適の材料ではなかったことが判明した。そこで、新たに適切な大腸菌株を探索し、再実験を実施してデータの収集・再検討をせざるを得なくなったことが、進捗の遅れの要因である。しかし、BW25113株とJW00368株の実験系でもこれまでの結果を指示するデータが出ており、さらに必要なデータを収集・検討し、「BCRに抗菌活性があること」と「生理活性には多様性があると考えられること」については、可能な限り早急に証明を済ませたい。 進捗を遅らせるもうひとつの要因は、BCRの安定性である。BCRの抗菌活性は、保存期間が長くなると低下する傾向にある。そこで、リフォールディングを施したところ、活性の回復が見られたことから、保存中に立体構造が変化し、その結果、活性も変化すると考えられた。再現性のある実験結果を得るためには、適宜、リフォールディングを施し、その都度、抗菌活性を評価する必要がある。煩雑ではあるが、特に、sbmA遺伝子とBCRに対する感受性については、信頼できるデータを得られるように、実験を重ねている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な推進方策に変更はないが、ふたつのサブテーマのうち「1.BCRの生理活性の解明」については、大腸菌BW25113株とそのsbmA遺伝子変異株であるJW00368株を使用した実験を継続し、sbmA遺伝子とBCRの作用との関係を明らかにすることを最重要の課題とする。BCRのリフォールディングと活性を適宜評価・確認しながら実験を進め、BCRの活性とsbmA遺伝子の関係について、再現性のある結果を得られるように実験を重ねることにしている。JW00368株のBCRに対する感受性が変化していた場合には、BCRの標的分子の候補としてsbmA組換えタンパク質を生産し、BCRとの相互作用を検討する。 もうひとつのサブテーマ「2.BCRが共生に必須な分子であることの証明の試み」は、RNAiによって生体内でのBCRの機能の解明を試みる取り組みであり、当初の計画どおりに遂行する予定である。研究の進捗が遅れているため、研究期間内に結論が得られるかどうかはわからないが、少なくとも、植物を介して抗生物質(リファンピシンのようにブフネラに対する効果が確認されているもの)がアブラムシ体内に取り込まれるかどうか、また、効果が認められるかどうかまでは確認し、実験系の確立を済ませたい。
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