2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K14925
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松山 晃久 国立研究開発法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 専任研究員 (90399444)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エネルギー代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸素が存在する好気条件では電子伝達系を用いた酸素呼吸を行い、酸素がなくなると嫌気呼吸によってATPを合成してエネルギーを得る生物が通性嫌気性微生物であるが、これらの生物がいかに外界の酸素状態を感知し、細胞内の代謝経路を切り替えているかはよくわかっていない。古くに翻訳開始因子として単離されたeIF5Aタンパク質は、「ハイプシン化」と呼ばれる特殊な修飾を受けるタンパク質である。ハイプシン化はeIF5Aにのみ起こる修飾であり、生育に必須の修飾であることが知られているが、この修飾がいったい何に必要なのか、その生理的機能は明らかになっていない。最近、我々はeIF5Aのハイプシン化が欠損すると、ミトコンドリア電子伝達系のタンパク質のいくつかが減少することを見出した。この結果から、eIF5Aはハイプシン化という修飾を通してエネルギー代謝の制御を行うことが推測されたため、本研究ではハイプシン化欠損変異株におけるエネルギー代謝の変化を調べるとともに、どのような分子メカニズムによって特定のタンパク質のみの発現レベルを低下させているのかを明らかにすることを目指した。初年度は、ハイプシン化の欠損株において、実際に酸素呼吸能が低下し、それを補うために解糖系が活性化しているのかどうかを検証した。酸素消費量を測定することにより好気呼吸能を調べたところ、eIF5Aのハイプシン化が不完全な状態で止まるmmd1遺伝子変異株では、確かにミトコンドリアの活性が減少していた。電子伝達系は単にATPを合成するための電気化学的エネルギーを生み出すだけでなく、解糖系で作られたNADHをNAD+へと酸化し、再生する役割も持つ。したがって、電子伝達系の活性が低下している場合は、発酵等によってNAD+の再生が必要となる。そこで、エタノール生産量を測定することによりmmd1変異株のアルコール発酵能を調べたところ、野生株と比較して有意に活性が上昇していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハイプシン化が酸素呼吸を制御しているという着想に至った本研究の発端は、eIF5Aのハイプシン化を担うMmd1の欠損株でミトコンドリアにおける好気呼吸関連タンパク質の発現レベルの減少が見られたことであった。そこで、初年度の一番の目標はeIF5Aのハイプシン化の欠損により、実際に細胞内のエネルギー代謝が変化し、好気呼吸活性が低下する一方で、それを補うために、発酵等の経路が活性化していることを確認することであった。 この観点から、実際にeIF5Aのハイプシン化が起こらない株でミトコンドリアの好気呼吸で使用される酸素量を調べたところ、酸素消費量の低下が確認された。その一方で、培養液中のアルコール量は増加していたことから、この変異株では確かにeIF5Aのハイプシン化の欠損だけでエネルギー代謝の切り替えが起こっていることが確認できた。このように、翻訳因子のハイプシン化という特殊な翻訳後修飾が果たす意外な生理的役割が明らかにできたことから、初年度の研究はほぼ予定通りに進んだと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
eIF5Aのハイプシン化の生理的役割は分かったものの、この修飾がどのようにして好気呼吸に関わるタンパク質群だけを選択的に抑制しているのか、その分子メカニズムは不明である。そこで本年度は、この分子メカニズムを明らかにするための研究を行う。最初のスクリーニング系では全遺伝子を個別に発現できる株のセットを用いて、eIF5Aのハイプシン化の有無で影響を受けるタンパク質を同定した。これらの株間の違いは、タンパク質をコードするORF部分のみであり、mRNAの発現に必要なプロモーター領域等は全て共通である。したがって、タンパク質レベルの違いを生み出しているのはORF内の配列ということになる。そこで、ORF内のどの部分がハイプシン化による制御の影響を受けるのかを特定し、その共通配列を見出すことを目指す。具体的には、特にハイプシン化の有無により発現レベルの変動が激しいタンパク質をいくつか選択し、ORFの一部が欠損した部分欠損変異体を用いてハイプシン化に応じたタンパク質レベルの変動が見られるかどうかを検証していく。一方で、バイオインフォマティクス的手法を用いてアミノ酸配列情報からも共通配列を探る。もともとeIF5Aが単離された過程からも、翻訳段階で制御が行われている可能性が高いことから、候補配列が得られた場合は、それらに変異を導入し、コドンやアミノ酸配列を置換することによって検証していく。
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Causes of Carryover |
eIF5Aのハイプシン化による翻訳制御のメカニズムを明らかにする実験よりも、まずは当研究の大前提となっている、ハイプシン化によりエネルギー代謝が制御されているという仮説を検証することに尽力したため、分子メカニズムの研究に必要な試薬や器具の購入を控えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
eIF5Aによる翻訳制御を受ける配列を同定するための実験に用いるDNAプライマーや、翻訳以外のステップ(例えば転写)がハイプシン化によって影響を受けないことを確かめるための実験に用いるリアルタイムPCR試薬などに使用する。
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