2015 Fiscal Year Research-status Report
天然・人工リアノイド群の網羅的全合成法の開発および新機能分子の創製と応用
Project/Area Number |
15K14928
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 将行 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (70322998)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 合成化学 / 全合成 / 生物活性分子の設計 / 生理活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、Ca2+放出チャネルであるリアノジン受容体を強力に活性化するリアノジン(1)の構造と機能をモチーフとした、天然・人工リアノイドの網羅的全合成・活性評価を目標としている。具体的には、①天然・人工リアノイドの網羅的全合成および②合成分子群の機能解析と活性発現要件の解明を目的とした。平成27年度は項目①を、強力に推進した。 ①天然・人工リアノイドの網羅的全合成 1はピロールカルボン酸エステルとジテルペン構造(2: リアノドール)によって構成される。まず、最近全合成を達成したリアノドール (2)の合成ルートを創造的に応用し、1の世界初の全合成に成功した。本合成では、非常に立体障害の高いC3位ヒドロキシ基でのピロールカルボン酸エステル構築を、グリシン保護体を縮合後、ピロール環形成反応に付すことで実現した。さらに、殺虫、抗補体、免疫抑制などの多岐に渡る生物活性を有する4個の類縁天然物3-エピ-リアノドール(3)、シンゼイラノール(4)、シンカッシオールB (5)およびA (6)の網羅的全合成を初めて達成した。3-6は共通の炭素骨格を有するが、C1, 2, 3, 15, 18位の酸化度および結合様式が異なる。そのため、1, 2の合成で利用した共通中間体のC2, 3位の選択的官能基変換法を開発した。すなわち、 C3位ケトンを立体選択的に還元し、C2位ケトンへイソプロペニル基を立体選択的に付加した後、オレフィン部位の接触水素化を経て、3を全合成した。4の全合成は、C3位酸素官能基を還元除去後、C2位ケトンへのシクロプロピル基導入、3員環の開環を経て達成した。C2位ケトンへのクロチル基を付加、オレフィン部位のオゾン分解・還元により、5のC2位ヒドロキシイソプロピル基を構築して5を全合成した。さらに、5を酸性条件に晒すと、Grob型のC1-C15結合開裂反応が進行し、6を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、前記の項目①に精力的に取り組み、大きく進展させることで、4報の学術論文を出版することができた。また、これらの研究成果は国内外から高い評価を得ている。 リアノジン(2)は複雑に縮環した5環性骨格(ABCDE環)上に、6つのヒドロキシ基およびヘミアセタールを有し、8つの四置換炭素を含む11連続した不斉中心が存在する。さらに、非常に立体障害の高いC3位にピロールカルボン酸エステルを持つ。そのため、極めて合成困難な天然物であり、実際合成例は存在しなかった。申請者は、ピロールカルボン酸よりも立体的に小さいBoc2N-グリシンを導入し、2箇所の求電子部位を有する3炭素ユニットとのピロール環形成反応に付すことで、2の世界初の全合成を実現した。また、殺虫、抗補体、免疫抑制などの多岐に渡る生物活性を有する4個の類縁天然物の網羅的全合成を初めて達成した。さらに、2個の天然物(3, 7)の構造訂正および2個の天然物(5, 6)の完全構造決定を実現するに至った。すなわち、2および3のスペクトル解析の結果、3が天然物からの単離報告がなされていたリアノドールの真の構造であることを明らかにし、シナカソール(7)として提唱されていた構造が6と同様であることを解明した。加えて、5の合成中間体を結晶性化合物へと誘導後、単結晶X線構造解析により、未決定であった5, 6のC13位立体化学を決定した。本成果は、官能基が極めて密集したテルペノイドの全合成における戦略の重要性、およびその戦略を実現可能とするための鍵反応開発の必要性を示している。本研究で展開した合成戦略は、他の天然・人工リアノイドの網羅的全合成、および天然物を凌駕する機能を付した人工分子の創出を可能とする。そのため、今後の項目②の実現への準備は完全に整ったと言え、全般的には当初の計画通りの達成がなされている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、項目①および②を同時に推進する。 ①天然・人工リアノイドの網羅的全合成 それぞれの天然・人工リアノイドの合成ルートを最適化し、さらなるライブラリー構築を進める。また、リアノイドと炭素骨格が異なり、現在までに全合成例が全く存在しないイソリアノイドの全合成を目指す。 ②合成分子群の機能解析と活性発現要件の解明 リアノイド類の活性発現要件に関する情報を得るためには、幅広いリアノイド群を供給可能な本研究提案の合成法が必要不可欠である。リアノジン(1)は、低濃度(nMレベル)ではリアノジン受容体を活性化し、高濃度(100 mM以上)では阻害する、極めて興味深い活性を有する。また、リアノジン受容体には3 つのサブタイプが存在し、これらが骨格筋・心筋・平滑筋・脳の小胞体に異なる割合で散在することにより、Ca2+シグナルが精密に制御されることが知られている。その役割は極めて重要であるが、サブタイプ個々の詳細な機能については明らかにされていない。リアノジン受容体への結合を定量的に評価するために、1を蛍光ラベルした誘導体の合成調達を行う。蛍光ラベル体を用い、合成分子との競合阻害活性を定量することにより、特定のリアノジン受容体サブタイプに対する活性化・阻害に必要な構造部位を解明する。一方、共通の炭素骨格を有するが, C1, 2, 3, 15, 18位の酸化度および結合様式が異なる類縁化合物2-6は、殺虫(2-4), 抗補体(4-6), 免疫抑制(6)と多岐に渡る生物活性を示す。しかし、1-6のどの官能基がどのように、これらの多様な生物活性に必要なのかは、ほとんど明らかにされていない。合成された分子群に対して、様々な生物活性試験を総合的に遂行し、各官能基の寄与を明らかにする。
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