2015 Fiscal Year Research-status Report
核酸配列上での発光分子構築反応の開発と遺伝子検出技術への応用
Project/Area Number |
15K14933
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小島 直 国立研究開発法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (30356985)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 遺伝子検出 / 生物発光 / ルシフェリン / 核酸プローブ / 核酸化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、鎖長の短い核酸配列を高感度に検出可能な遺伝子検出技術の開発を目指し、遺伝子の検出技術としては未開拓であった生物発光を利用した新しいシステムを構築する。そこで先ず、配列情報を生物発光シグナルに変換するための新規核酸プローブを作製する。蛍光を利用する従来の遺伝子検出法では、細胞内夾雑分子由来の自然蛍光が高感度検出の障害となっているが、生物発光は夾雑物の影響を受けないため、高感度な検出が可能になると期待される。 配列情報を生物発光に変換するシステムとしては、当初計画していた標的配列上で発光基質(ルシフェリン)を化学的に構築する“発光基質構築型核酸プローブ”に加え、標的配列への結合を引き金にして発光基質を放出する“発光基質放出型核酸プローブ”についても開発を進めることとし、研究初年度となる本年度は、両核酸プローブの作製を重点的に進めた。 “発光基質構築型核酸プローブ”では、シアノベンゾチアゾール誘導体、およびシステイン誘導体をそれぞれ配列末端に導入した核酸プローブをデザインし、合成を進めた。2つのプローブが標的配列上に隣接して結合すると、シアノ基とシステイン間での縮合環化反応が起きルシフェリンが構築されると期待される。なお、ルシフェリンは6’位水酸基のアルキル化により発光活性が失われるため、構築するルシフェリンは6’位アミノ体とし、この部位で核酸と連結する。“発光基質放出型核酸プローブ”では、一方の核酸プローブにアジドベンジル基を介してルシフェリンを連結し、もう一方にはホスフィン基を導入したプローブをデザインした。この組み合わせでは標的配列結合時にアジド基とホスフィン基間でのStaudinger反応が誘起され、その結果、核酸プローブよりルシフェリンが放出される。後者についてはすでにプローブ構築に必要な分子の化学合成を終え、現在核酸への導入について検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、遺伝子の検出技術としては未開拓であった生物発光を利用した高感度な遺伝子検出システムの構築を目指し、配列情報を生物発光シグナルに変換する新規核酸プローブの作製を計画した。当初計画ではこの変換システムとして、標的配列に結合した時に発光基質が構築される“発光基質構築型核酸プローブ”の作製を計画し、開発研究を進めた。一方で、ルシフェリン分子の活性構造を化学的にon-off制御することができれば、より効率的な変換システムの構築が可能になると考え、当初計画していなかったシステムである“発光基質放出型核酸プローブ”を考案し、並行して開発を進めることとした。 “発光基質構築型核酸プローブ”開発では、アノベンゾチアゾール基、およびシステイン基をそれぞれ導入した2つの分子について化学合成を行った。また合成した2つの分子を弱塩基性水溶液中で混合することで、計画通りにルシフェリン分子が構築されることを確認出来た。一方“発光基質放出型核酸プローブ”では、発光基質(ルシフェリン)がp-アジドベンジル基を介して結合したプローブ分子が必要となるため、この化学合成を行った。また合成したプローブ分子では、トリフェニルホスフィン試薬によりアジド基が選択的に還元され、ルシフェリンが定量的に放出されることを確認した。 以上のように、本年度は2つのシステム構築に必要な分子の化学合成を重点的に進めた。しかしながらこれらのプローブ分子の化学合成が当初の計画よりも困難であり、想定以上の時間を要した。そのため年度内での達成を予定していた核酸プローブの評価については、計画のすべてを達成することが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
先ずは合成したプローブ分子をオリゴヌクレオチドに導入して、必要な核酸プローブの作製を行う。核酸プローブの構築は、5’-末端あるいは3’-末端をアミノ化したオリゴヌクレオチドとプローブ分子との縮合反応により達成する。続いて作製した核酸プローブを用いて、本システムによる遺伝子検出効率を検証する。標的配列には、鎖長20~30残基程度の合成DNA及びRNAを調整し、核酸プローブを過剰量用いるなど、効率的な反応条件を明らかにする。いずれのシステムでも標的配列は反応前後で変化しないため、新しい核酸プローブとの再結合により反応が繰り返されることで、化学的な増幅が可能になると考えられ、検出感度の更なる高感度化も期待される。そこでPCR装置を用いて温度変化を加えた場合についても検討し、至適な増幅条件を決定する。 加えて、プローブ核酸の機能向上を目的としたグアニジン核酸の合成を進める。グアニジン核酸は、リン酸ジエステル結合がグアニジニウム結合に置き換わったユニークな構造を持ち、正電荷を有していることが最大の特徴である。そのため標的配列との高い親和力と核酸分解酵素への耐性獲得が期待される。平成28年度では、グアニジニウム基により連結されたダイマー型アミダイト試薬の化学合成を目指す。その後、配列の末端部位や中央付近にグアニジン核酸を導入した複合型オリゴヌクレオチドを合成し、正電荷が二本鎖の熱的安定性に与える影響を融解温度測定により評価する。また核酸分解酵素を用いた水解実験により生物学的安定性を評価する。 研究最終年度となる平成29年度では、上記各課題で得られた成果を融合させ、本研究の目標である高感度遺伝子検出技術の確立を目指す。なお各課題については、一定の研究成果を得た時点で、国際核酸化学シンポジウム等での学会発表、あるいは専門誌への論文発表により、その成果を国内外に発信する。
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Causes of Carryover |
平成27年度での購入を予定していた凍結乾燥機について、所属部門内研究者の所有する装置を共有利用できることになったため、本装置の購入を見送った。一方で、本研究で合成を計画しているプローブ核酸の化学合成に計画以上の試薬及び消耗品類が必要となったことから、上記の予算をこれらの消耗品類購入に用いることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は全て消耗品費に組み込み、必要な試薬類の購入に充てる。 一方、設備備品費、旅費等に計画変更はない。
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Research Products
(2 results)