2015 Fiscal Year Research-status Report
乳腺幹細胞への高効率なダイレクトリプログラミング因子の同定
Project/Area Number |
15K15022
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
仙波 憲太郎 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70206663)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 幹細胞 / 脱分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
a)我々の開発した乳腺幹細胞の維持培養法を用いて、幹細胞をレポートすることのできるマウスの乳腺上皮細胞(MEC)の各分画を培養したところ、乳腺幹細胞と思われるEGFP(+)の細胞が検出される頻度が、分画細胞の混合の違いによって差がみられた。この発見から、乳腺上皮組織のある種の細胞が、別の細胞が自然に脱分化へ向かう能力を抑制するとの仮説を立てることができ、前者細胞の脱分化抑制因子の存在の可能性を世界で初めて検証するlineage tracing法を用いたin vivo解析に着手するきっかけが得られた。このような因子が同定できればその機能を阻害することで高効率な脱分化が可能となることが期待される。 b)既に精製済みの脱分化誘導候補遺伝子の発現ベクターを遺伝子1個ずつ上記レポーターマウスから回収したMECに導入し、乳腺幹細胞の維持培養を行って約2週間の観察を行ったところ、僅かではあるがレポーターであるEGFPの発現の差が認められる遺伝子を2個同定することができた。この細胞は培養ウェル上の1%未満なため、FACSなどの分離は収率上困難であった。一方、ウェル上の全ての細胞をcleared fat-padへ移植しても、乳腺の再構築能が著しく向上することはなかった。a)の知見から推測すると幹細胞以外の細胞が脱分化に抑制的に働いてしまったことも十分考えられるが、再現性を含めてさらに検証の必要がある。 c)幹細胞レポーター細胞のEGFP(-)とEGFP(+)のRNAを回収し、NGS解析を行うことでEGFP(+)に特異的に高発現する遺伝子の候補を新たに数個同定した。これらが幹細胞性を正に付与、または幹細胞状態を維持させる活性を有する可能性が考えられた。レポーター細胞を用いて強制発現による活性の確認を行うためにcDNAをクローニングできたものに対して発現ベクターの作製を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
レポーターマウスの繁殖性の問題によってドナーマウスから細胞を一度に大量に回収することが難しい上、特殊な培養法での検討となるため、113遺伝子の解析を再現性も含め1つ1つ行うのにそれだけで時間を要した。また、iPS化を行って判明したEGFPの発現レベルから比較すると極めて高い活性のあるものが存在せず、僅かなEGFPの発現を示すものを顕微鏡観察下で培養ウェル上をくまなく探す必要があったため、これに多大な時間を要した。また、in vivoの解析は乳腺の再構築能が判別できるまで、2ヶ月を要し、機能性を判断する乳汁産生機能を調べるまでにさらに少なくとも1ヶ月を要する。
|
Strategy for Future Research Activity |
弱くではあるが活性の同定された2遺伝子についてはさらに再現性を含め、乳腺再構築能を付与できるかどうかをin vivoで検証する。また、高い活性を与える因子(遺伝子)が未だに見つかってないが、現在考えられる仮説として、a)複数の遺伝子が必要である可能性、b)抑制因子が阻害している可能性、c)現在の遺伝子ライブラリの中には因子が含まれていない可能性、などが考えられる。 それらに対し、a)組み合わせによる共導入を行う。抑制因子となりうるものをなるべく排除して行う必要があるため、組み合わせを変える必要がある。ある組み合わせで活性が見つかった場合、マイナス1因子の実験により、必要性を確認する。b)上述の混合培養での新規知見から、ある画分の細胞に抑制因子が存在する可能性があることから、これをin vivoの解析系で明らかにした上でノックダウン・ノックアウトライブラリを導入するようなスクリーニング系で同定や解析ができないかを検証する。c)レポーター細胞のEGFP(-)と(+)のNGS比較解析を行って同定された遺伝子について本年度と同様なレポーター解析を行いたい。本NGS解析ではそれに用いたRNAの収量の問題があり、一部のリード数しか得られていない状況であるが、細胞の分画技術が改善し対策が立てられているため、より精度の高い解析が可能である。問題は、予算が限られている点で実施できないことである。 申請当時の予定であった網羅的転写因子ライブラリの導入は分与が実現できればいつでも実施可能である。
|
Causes of Carryover |
当初予定していたよりも、研究費の節約が可能であった。すなわち、なるべくキャンペーンや一度の大量購入を実施することで試薬・消耗品の予算を削減できた、特に高価な試薬はメーカーからの特殊な優遇を受けられた、また、実験者が無駄遣いしないで低コストで実験を行うよう徹底指導したことが主な理由である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
培養に必要なもの、または幹細胞の維持培養に添加するとさらに効率が上昇できると期待できる高価な試薬類の検討に用いたい。また、移植実験の手術に必要な用具の購入(例えば植え継ぎの際に3週齢のマウスの小さな乳房へ小さいポケットを開けるのに必要な細密なハサミなど)に使用する。
|