2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K15045
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
石岡 憲昭 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (70184471)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石原 昭彦 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (90184548)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 宇宙飛行 / 人工冬眠 / 筋萎縮 / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳動物が長期にわたり動きを止めると骨格筋の萎縮や骨量減少が生じるが、冬眠動物であるヤマネやコウモリは、長期にわたる冬眠期間中に、筋萎縮や骨量減少は生じない。本研究では、体の機能や形態を維持できる冬眠のメカニズムを明らかにして、長期の宇宙滞在を可能にする「人工冬眠」への応用を目指している。さらに、老化によって生じる筋萎縮を予防するための方法を確立できると期待される。 平成27年度は、アフリカヤマネの低温下15℃(他の哺乳動物が擬似冬眠できる低温状態) での飼育により、他哺乳動物には見られない皮膚温が環境温度の変化に従い変化することや骨格筋において有酸素的な代謝能力が増大することにより、低温時でも代謝を維持することを示した。平成28年度は低温環境下飼育の温度条件を変え生存率、皮膚温(体温)の変化を観察し、代謝維持に関する遺伝子群や骨格筋の機能や代謝関連の遺伝子群、特にPGC-1α、FOXO1、HSPsなどの発現の温度依存性を解析した。 アフリカヤマネの低温 (10℃、15℃、20℃) 下飼育では、15℃での飼育を6週間にわたって継続することができた (飼育6週目で生存率100%)。なお、10℃での飼育では、この温度に耐えられなかった。アフリカヤマネの体温は、環境温度に依存して変化すること、15℃の低温飼育によって酸化系酵素活性が増大することが明らかになった。低温飼育による酸化系酵素活性の増大は、低温に対して体を保護するために生じた骨格筋での適応によるものと推察された。さらに、温度依存的にPGC-1αのmRNA量の増加とFOXO1の減少、さらにHSP70 mRNAの発現量に増大、が認められた。 以上の結果から、アフリカヤマネを低温 (15℃) 飼育することによって、骨格筋の有酸素的な代謝能力が増大して、骨格筋の機能的な退行的変化を予防できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度計画した推進方策に従い、以下のごとく研究を進めおおむね予定した解析を実施できた。 常温 (25℃) と低温 (15℃と20℃) での6週間の生存率は100%であった。一方、10℃では、2週目に50%の生存率、3週目に30%の生存率、4週目では生存率は0%であることを確認することができた。また、飼育6週間目の表面皮膚温(体温)は、25℃で飼育したヤマネでは 32.1 ± 0.3℃、20℃では24.3 ± 1.1℃、15℃では17.3 ± 0.4℃と、環境温度に体温を順応させることを明らかにした。さらに、筋の酸化系酵素(SDH)活性については、25℃及び20℃で飼育したヤマネではほとんど差がなく、一方、15℃で飼育したヤマネでは20℃および25℃で飼育したヤマネの筋におけるSDH活性よりも有意に高い値を示した。筋の酸化活性が増大することで代謝能力を上げて低温時の代謝を維持していることを明らかにした。 活動制限飼育下で筋萎縮を起こしたヤマネの筋では酸化活性が低下し、PCG-1αのmRNAは減少し、逆にFOXO1のmRNAは増加していたが、低温下では温度依存的にPCG-1αのmRNAは増加し、FOXO1のmRNAが減少すること、また筋のHSP70(Heat shock protein 70 ) のmRNA発現量については、25℃で飼育したヤマネと20℃で飼育したヤマネではほとんど差がなかったが、15℃で飼育したヤマネの筋のHSP70のmRNA発現量は、20℃および25℃で飼育したヤマネよりも有意に高い値を示した。コウモリの冬眠前後では骨格筋に萎縮が認められず、さらに、筋萎縮の抑制にはHSP70が関係していることが報告されており、同様にアフリカヤマネにおいてもHSP70が関係し、低温飼育では発現量が増加することを明らかにしたが、他のHSPやFOXO3などの検討ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は最終年度となることから、これまでの知見を学会、論文等により積極的に外部発表する。さらに平成28年度の解析が不十分であった冬眠に伴う抗老化に関する情報を得るために、冬眠と老化に関わる遺伝子群や筋萎縮関連遺伝子群と合わせてデータを解析する。特にFOXO1及びFOXO3に関しては宇宙飛行したマウスの遺伝子解析から筋萎縮と老化に関与することが示唆されているため、比較解析を実施し、人工冬眠と筋萎縮防御への応用に関する知見を得る。
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Causes of Carryover |
当初予定していた、委託による遺伝子産物の分析を計画していたが、冬眠と筋萎縮のキーとなる遺伝子産物については研究チームで分析、解析が可能となり委託する必要がなくなったため、次年度に分析試薬等の消耗品類購入と外部発表等の旅費のため持ち越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
冬眠と老化の関係からも人工冬眠と筋萎縮防御への応用に関する遺伝子産物やHSP群、FOXO3解析するために必要な消耗品類の購入およびこれまでの知見をまとめ、外部発表を積極的に行うために必要な旅費等に使用予定である。
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