2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K15069
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
鈴木 厚 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 准教授 (00264606)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 小脳 / プルキンエ細胞 / 運動失調 / MTCL1 / 微小管 / AIS / 軸索起始部 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はすでに、子宮内穿孔法によってマウスの胎児期の小脳プルキンエ細胞でMTCL1をノックダウンすると、生後同細胞のAIS(軸索起始部)の形成が異常になることを観察している。本年度は、まず「このノックダウンの表現系のレスキュー実験系の確立」に努めた。そして最終的に、shRNAとGFP, さらにはレスキューのためのノックダウン抵抗性の各種MTCL1変異体を同時に発現するベクターを工夫することで、効率よく本実験のデータが得られることを明らかとした。その上で、計画していたレスキュー実験を進め、最終的に野生型MTCL1が上記表現系の回復をかなりの程度引き起こすのに対して、微小管結合部位を欠失したMTCL1はその能力が大きく低下するという、期待していた結果を得ることに成功した。興味深いことに、MTCL1に二つ存在する微小管結合部位それぞれが、違った形でAIS形成に関わることも判明した。最も決定的な寄与をしているのは、微小管の安定化を引き起こすC末端の結合部位であり、この領域がないとAnkyrinGのAISへの局在がほとんど回復せず、軸索極性の異常(軸索の樹状突起化)も回復されることがないことがわかった。一方、微小管の架橋にのみ関わるN末端の結合部位がなくてもAnkyrinGの局在はレスキューできるものの、その局在の位置の異常を修復することができないことが判明した。以上のような結果を統計的有意さを持って確定するだけの実験を繰り返し、最終的に、「MTCL1は、その微小管制御能を介してAIS形成に関わること」を最終的に明らかにすることに成功するとともに、そのメカニズムについても重要な示唆を得ることができた。一方、ヒトの遺伝学的研究から可能性が示唆されていたC末微小管結合部位の点変異体は、野生型とほぼ変わらないレスキュー能力を示すことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、「MTCL1は、微小管を制御することを通じてAIS形成を制御していることの証明」に成功し、AIS微小管の生理的重要性を明らかとするという本申請研究の大きな目的の一つをほぼ達成することができた。ただ、安定的で真に確信の持てるレスキュー実験の条件を確立するために、当初予想していたよりも長い時間がかかってしまい、胎児に導入してから結果の解析まで長い時間のかかる実験を何度も繰り返して統計的データを取る本実験については、MTCL1の変異体に関して解析するにとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず「AIS微小管の重要性を明らかとする」という第一の目的を最終的に達成するために、MTCL1によって束化・安定化されたAIS微小管がいかにしてAnkirinGのAIS領域への局在を引き起こすのか、そのメカニズムをさらに明らかにすることに注力する。というのも、最近、「AIS微小管には微小管の+Tipsの一つ、EB1/3が濃縮しており、これがAnkyrinGと結合し、そのAIS領域への局在を促進している」という報告がされたからである。EB1/3は安定化した微小管に選択的に結合するという報告もあることを考慮すると、MTCL1-->微小管安定化--> EB1/3のrecuit-->AnkrinGのrecuitという、非常に理にかなったAIS制御メカニズムが想定されるようになったからである。実際、培養細胞にMTCLを高発現した際に見られる安定化微小管束にEB1/3が濃縮するという結果も最近得ることができた。したがって、当初の予定を変更し、この仮説の実証を平成28年度は優先し、それと並行して、これまでに蓄積した研究成果の論文発表準備を進める。
その上で、第二の目的である、「AIS微小管がゴルジ微小管である」という仮説を実証する実験を最大限進める。まずは、本来平成27年度に予定していた、子宮内穿孔法によるノックウン、レスキュー実験による「PAR-1」、および「ゴルジ微小管制御因子」のAIS形成への関与の検討を進める。そして、可能であれば、in vitroの培養系を用いたライブ観察実験により、この仮説のさらなる証明を進める。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」の欄に記入したように、当初予定していた子宮穿孔法を用いたマウス胎児小脳におけるノックダウン/レスキュー実験の実験条件の検討、確立に予想以上の時間がかかり、本格的な実験を進める時期が遅れたため、実際の予定よりも研究費の使用が後ろにずれた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「今後の推進方策」欄に記入したように、基本的実験条件が確立したので、本来予定していた子宮内穿孔法を用いた実験の遅れを取り戻すべく、平成28年度は実験を鋭意進める。一方、当初の目的を新たに発展させる方向が見えてきたので、新たに、そちらの方向の実験を進める経費としても利用していく。
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