2015 Fiscal Year Research-status Report
慢性下気道感染症患者の気管支洗浄液から検出された新規微生物の遺伝子解析
Project/Area Number |
15K15136
|
Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
福田 和正 産業医科大学, 医学部, 講師 (40389424)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 みどり 産業医科大学, 医学部, 講師 (40320345)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 新規感染性微生物 / ゲノム解析 / 呼吸器感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
新たな病原体の発見や、病態と細菌叢の相関に関する詳細な知見を得る為に、様々な臨床検体を対象とした16S rRNA遺伝子シークエンスに基づく網羅的細菌叢解析を行っている。その過程で、慢性下気道感染症患者由来の気管支洗浄液(BALF)検体から、既知菌種との相同性が80%未満の極めてユニークな16S rRNA遺伝子シークエンスが得られた。我々は本配列を有する微生物をInfectious Organism Lurking in human Airways(IOLA)と命名した。この配列は細菌叢において最も多く検出されたものであり、本症例における起炎菌と疑われたが、本配列の相同性検索からは近縁の細菌を推定することが出来なかった。IOLAは未だに培養法による分離が成功していない未知の微生物である。この配列を有する生物の正体について分子生物学的手法により知見を得、慢性下気道感染を含む原因が明らかでない呼吸器疾患へのこの未知の微生物の関与について明らかにする。平成27年度はIOLA特異的PCR法を構築し、呼吸器疾患患者由来検体(BALFや喀痰等約500検体)におけるIOLAの含有状況を調べ、細菌感染症患者由来の検体からのみIOLAは検出されることを明らかにした。また、IOLA特異的Real-time PCR法を確立し、各検体の細菌叢におけるIOLAの割合について明らかにした。さらに、IOLAを含むBALF検体からIOLA細胞を濃縮し、IOLAゲノムDNAの粗抽出および全ゲノム増幅を行った。得られたDNAを用いてゲノム解析を試み、IOLAを単離することなく、全長303,838bp、GC含量20.7%のIOLAのゲノム配列を取得した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27 年度の計画として、1、IOLA の16S rRNA 遺伝子を特異的に検出可能なPCR 法の確立、2、細菌叢におけるIOLAの割合を把握するためのReal-time PCR 法の確立、3、IOLA 特異的PCR 法およびReal-time PCR を用いて、様々な呼吸器疾患患者由来検体におけるIOLA 含有検体の調査、4、IOLA が検出された検体の臨床情報とIOLA 保有状況との相関についての解析、以上4項目を計画した。1に関しては、ヒトや他の細菌が混在している検体から、検出感度5コピー以上(テンプレート溶液1μL中)でIOLAの16S rRNA遺伝子を特異的に検出可能なPCR手法を確立した。2に関しては、1で設計したIOLA特異的プライマーと全細菌を網羅するユニバーサルプライマーを用いて、全16S rRNA遺伝子コピー数におけるIOLAの16S rRNA遺伝子コピー数を定量するReal-time PCR 法を構築した。3については、1と2で構築した手法を用いて、呼吸器臨床検体523例についてIOLAの検出を試みた。その結果、BALF検体480例から12例、気管支吸引痰43検体から2検体でIOLAが検出できた。また、IOLAは細菌感染症と診断された患者由来の検体からのみ検出されること、及び細菌叢におけるIOLAの割合は検体によって大きく異なることを明らかにした。4については、IOLAが検出された検体が14検体(523検体中)と少ないことから、臨床情報とIOLA 保有状況との相関についての統計解析には至らなかった。しかし、IOLAの優占率が高い検体を用いて、IOLAのゲノム解析用DNAの調製を行い、次世代型シークエンサーによるIOLAゲノムシークエンス情報の取得に成功した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、平成27年度に得られたIOLAゲノムシークエンス情報を基に、IOLAの完全ゲノム配列の決定と解析を行う。ゲノム情報から、IOLAの生物学的な特徴や分類の位置付けについて考察を行う。また、IOLAが検出された検体から抽出したDNAを用いてIOLAの遺伝的多様性について検討を行う。当初の計画では、これまでに明らかにした約19kbのIOLAの部分ゲノム断片配列上に認められた30S ribosomal protein S4, 50S ribosomal protein L27, および50S ribosomal protein L20様遺伝子について解析を行う予定であったが、IOLAのゲノム解析が順調に進行していることから、ゲノム配列を利用した、より網羅的な遺伝的多様性解析を行う予定である。また、引き続きIOLA 特異的PCR 法およびReal-time PCR を用いてIOLA 含有検体の調査を行い、IOLAの保有状況と臨床所見との相関について考察する。さらに、得られた情報に基づき、培養による分離培養もしくは培養細胞を用いた増殖を試みる予定である。
|
Causes of Carryover |
平成27年度に計画したIOLA の16S rRNA 遺伝子を特異的に検出可能なPCR 法の確立、及び、細菌叢におけるIOLAの割合を把握するためのReal-time PCR 法の確立が順調に進捗した。そのため、当初予定した予備実験に要する試薬や消耗品の消費量が予想以上に少なく済んだ。また、共同研究者の旅費が、他の研究費から賄われたため、旅費の支出額も抑えられた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでに、IOLAが含まれる検体として呼吸器臨床検体14検体が得られているが、臨床症状とIOLAの相関について統計的な解析を行うには十分ではない。平成28年度は、引き続きIOLA含有検体の調査を行い、より多くのIOLA含有検体の収集を行う。また、IOLAのゲノム配列が明らかになったので、IOLAが検出された検体から得られたDNAを用いてIOLAのゲノム上の広い領域をPCRにより増幅し、塩基配列を明らかにする。各検体から得られた配列を比較することで、より詳細なIOLAの遺伝的多様性について解析を行う。さらに、IOLAゲノム解析から得られた情報を基に、IOLAの培養や培養細胞を用いた増殖試験を試みる。平成28年度の研究費として、以上の実験に必要なPCRやシークエンス試薬や消耗品、培地や細胞培養等に必要な試薬や消耗品費として使用する。
|