感受性非依存的にアルコール摂取行動を調節する新規Ｓｒｃ改変マウスモデルペアの解析

2016 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 15K15261
• Research Institution: University of Yamanashi
• Principal Investigator: 加藤 梧郎 山梨大学, 総合研究部, 助教 (60177441)
• Project Period (FY): 2015-04-01 – 2018-03-31
• Keywords: Ｓｒｃ / ユニークドメイン / リン酸化 / エタノール嗜好性

Outline of Annual Research Achievements

Srcのセリン75リン酸化の阻害変異(SA)及び擬似変異(SD)を導入した遺伝子改変マウスのエタノール嗜好性調節の分子機序を明らかにするため、今年度は以下の研究を行った。
（１）セリン75リン酸化酵素Cdk5の活性化サブユニットp35欠損とSrcセリン75変異の二重変異マウス株の樹立：p35（+/-）・Src(WT/SA)のダブルヘテロ接合体変異マウスまでは順調に得ている。雄雌の同接合体変異マウス同士の掛け合わせにより、p35(-/-)/Src(SA/SA)の二重変異雄マウスをプールし、月齢3～4か月に達したマウスのTwo-bottle選択試験（エタノール）を開始した。（２）Two-bottle選択試験によるエタノール摂取及び嗜好性制御の特性の評価：SA変異(Src(SA/SA))マウスのエタノール嗜好性は、エタノール５％では対照(Src(WT/WT))マウスより有意に上昇し、10% でも上昇の傾向を示し、エタノール消費量は、5％および10％の両者で対照マウスより有意に上昇した。これに対し、SD変異(Src(SD/SD))マウスは5％では嗜好性は差がなく、10％ではむしろ嗜好性の減少傾向を示し、消費量においては、SA変異マウスとは対照的に10％エタノールの場合、有意に減少した。両変異は正反対の効果を呈するものの、SD変異はSA変異と異なり高濃度のエタノールの場合にのみ影響がみられた。（３）薬物依存に関するSrcの下流エフェクター候補であるRhoキナーゼ(ROCK)の解析：エタノールの嗜好性に関わると予想される脳の海馬及び線条体を用いたRhoキナーゼの活性測定系を確立した。まだ、検体数が少ないので確定はできないが、Src(SA/SA)マウスのRhoキナーゼの活性はSrc(WT/WT)より低い傾向のあることを確認した。
これらはSrcのエタノール摂取行動の調節機構の解明に向けた重要な成果である。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本研究の目的は、エタノール嗜好性調節の分子機序を明らかにするため、SD変異マウスとSA変異マウスを用いて新規のCdk5/Srcフィードバック調節ループ仮説を検証することである。そのため、本研究計画はp35欠損マウスとのダブル遺伝子改変マウスの作出を柱としている。p35(-/-)/Src(SA/SA)の二重変異マウスの獲得のメドがつき、エタノールのTwo-bottle選択試験も開始している。また、Src上流のエフェクター分子の検討のために用いるp35(+/-)/Src(WT/SD)のダブルヘテロ接合体変異マウスの獲得は、予想より早く達成されている。また、エタノール嗜好性調節のSrc下流のリン酸化シグナルカスケードの候補分子も絞られた。しかし、昨年後期より動物飼育管理費が約1.7倍値上がりしたため、マウス飼育の規模を抑えざるを得ず二重変異マウス株の数の確保とそれらを用いた行動実験の遂行に当初の予想より時間を要している。これらを総合してやや遅れているという評価にした。

Strategy for Future Research Activity

p35欠損マウスとSrcセリン75置換変異とのダブル遺伝子改変マウスの作出は、懸念された同欠損マウスの繁殖が幸い予想以上に順調であり、Srcの改変マウスとの交配においても仔の出産が順調に進みそうなので、ダブルヘテロ接合体変異マウスの樹立には当初計画とそれほどの開きはなくなると考えれる。そこで、p35(-/-)/Src(SA/SA)によるCdk5/Srcフィードバック調節ループ仮説の検証は、対照にp35(+/+)/Src(SA/SA)を用いて進めていく。また、Srcの上流のエフェクター分子の検討については、p35(-/-)/Src(SD/SD)の雄マウスをプールし、月齢3～4か月に達したマウスのエタノールのTwo-bottle選択試験を、p35(-/-)/Src(WT/WT)を対照として実施する。今後も予想されるマウス飼育経費の高騰は実験計画全体に大きな制限を課すことになる。即ち、被検体マウス数の削減と同数のマウスを確保するのに要する時間の増大である。その中で、研究目的である分子機序の解明を達成するため、今年度の成果を踏まえSrc/Rho/ROCKシグナリングに的を絞り、研究を遂行したい。