2015 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS細胞を用いた脱毛症治療薬の創薬スクリーニング系の確立
Project/Area Number |
15K15421
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
大山 学 杏林大学, 医学部, 教授 (10255424)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヒトiPS細胞 / 毛包 / 分化誘導 / 共培養 / スクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、採取の困難なヒト毛包由来細胞に替わり、培養の比較的容易なフィーダーフリーの条件下で維持したヒトiPS細胞を用いて社会的ニーズの大きい脱毛症の治療薬に供するスクリーニング系を確立することである。 計画の初年度となる本年は申請書の記載に従い1)フィーダーフリーの条件下で培養したヒトiPS細胞から毛包本体を構成する主な細胞であるケラチノサイトと毛包間葉系細胞を代表する毛乳頭細胞への誘導を試み 2)両者を共培養する条件の確立を試みた。 ケラチノサイトへの誘導に関しては申請者らが予備実験で確立していたレチノイン酸とBMP4を用いた誘導法でフィーダーフリーiPS細胞から比較的安定してケラチノサイト様の形態を有し、ケラチノサイトの代表的マーカーであるケラチン14を高い効率で発現する細胞を誘導できたが、得られた細胞は分化傾向が強く容易に角化するため改修できる生きた細胞の数に限りがあることが今後解決するべき課題として残された。その解決のため分化傾向の少ない培養液を使用した誘導条件の改良に着手している。 また間葉系細胞についてはフィーダーフリーのヒトiPS細胞から間葉系細胞を誘導し、幹細胞マーカーの発現と骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化誘導能を確認、幹細胞の特性を有することを確認した。さらに、この細胞をレチノイン酸とWNT、BMP、FGFシグナルの活性因子を含んだ毛乳頭の特性を有する培地にて分化させた。 こうして得られた二つの細胞分画をトランスウェルを用いてケラチノサイト用培地、毛乳頭細胞様培地を混合した培養条件で共培養するところまで達成したが、細胞の生存率、毛包マーカーの発現などについて更なる検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケラチノサイトの誘導に関してはほぼ安定して今後の実験計画を遂行可能な条件を確立した。様々な工夫を試みたが結局、申請者らが過去にフィーダーを用いて確立した誘導条件をほぼ踏襲した条件がもっとも確実に効率良くケラチノサイトを作成可能であることが収率、特異的マーカー発現解析の結果から明らかとなった。 間葉系細胞に関してはフィーダーフリーiPS細胞からの誘導でも幹細胞マーカーを発現し、多分化能を有する幹細胞の特性をもつ細胞が誘導可能であることを示すことができた。ただし、共培養を試みることを最優先としたため、毛乳頭細胞の特性を与える段階を経たヒトiPS細胞由来間葉系細胞がどの程度特性を獲得したかについての解析を十分検討することができなかった。 共培養系の確立に関しては、ヒトiPS細胞由来の上皮・間葉系細胞を共培養することは達成したものの、共培養後の細胞の生存率などを鑑みると培養液などに関してはさらなる工夫が必要である可能性がのこった。 以上より、計画立案の段階で予定した実験計画を一応クリアしてはいるものの、間葉系細胞の機能解析、共培養系の安定化に関しては技術的課題を残した。これらの点を総合的に考慮しておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画遂行のために必須の3懸案事項の解決を目指す。 1)分化を抑制しつつヒトiPS細胞由来ケラチノサイトの増数を可能にする培養技術の開発 2)ヒトiPS細胞由来毛乳頭細胞相当細胞の特性の検討とその特性を更に向上させるための条件開発 3)上皮・間葉系相互の細胞の生存率を高める共培養条件の工夫 である。これらの解決を試みつつ、最適化した共培養系に薬剤を添加することによりヒトiPS細胞由来の細胞だけからなる共培養システムの有用性を評価する必要がある。 ヒトiPS細胞由来ケラチノサイトの分化を抑制する方法としてカルシウム添加濃度の低い培養液の使用を予定している。現在使用中の無血清ケラチノサイト培地との比較検討試験では予定の新しい条件で培養した場合の方が細胞の増殖が良好であり、角化傾向も弱いことが明らかになっている。 ヒトiPS細胞由来毛乳頭細胞相当細胞の特性の解析にはALPL、NOG、WNT5A、LEF1などの毛乳頭の機能を反映するバイオマーカーの発現を検討する。現在使用中のWNTシグナル活性化因子は細胞毒性が強い印象があるため他のWNTシグナル活性化因子で代用することを想定している。 共培養に条件については間葉系細胞の培養に使用する培地(DMEM)とケラチノサイト培地の比率の変更を予定している。 本年度、試験的に行った共培養から分離・抽出したRNAとコントロールとしてヒト正常成人ケラチノサイトと毛乳頭細胞の共培養から抽出したRNAを毛包関連分子の発現をreal-time PCRで確認し、ヒトiPS由来細胞だけからなる共培養系において優位に発現している毛包関連分子を選択する。次いで、上記の改良を加えて確立予定の共培養系にミノキシジル、アデノシンなどを添加しマーカーとなる分子の発現の推移を確認し、臨床的に増毛効果が期待されている薬剤のスクリーニングを試みる。
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Research Products
(3 results)