2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K15438
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
楯林 義孝 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, プロジェクトリーダー (80342814)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 気分障害 / うつ病 / アルツハイマー病 / オリゴデンドロサイト / オリゴデンドロサイト前駆細胞 / γセクレターゼ / Aβ / Notch |
Outline of Annual Research Achievements |
反復性うつ病を含む気分障害の既往歴は、アルツハイマー病(Alzheimer's Disease; AD) の最も強力な危険因子の一つである(1)。本申請者らはフローサイトを使った新技術を用いて気分障害など精神疾患の死後脳研究を行い、気分障害前頭前野でオリゴデンドロサイト(OL)前駆細胞(OPC)やOL 密度が特異的に低下していることを発見した(2-5)。前頭前野は海馬貫通路などとともに50~60歳代まで長期間に灰白質ミエリン化が進行し(6)、Braak らはその進行パターンとAD病理の進行パターンに逆相関があることを報告している(7)。 われわれの死後脳での発見は、気分障害とAD病態の間に、ミエリン化(OL分化)異常を共通点として何らかの関連がある可能性を示唆している(8, 9)。そこで本研究では、申請者らが独自に開発した成体ラット脳由来 OPC 培養細胞を用い(10)、1)OL 分化の鍵を握る線維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factor; FGF2)などの成長因子とNotchシグナルの関連の解明、2)培養OPCに大量に発現するAD関連タンパク質(APP、γセクレターゼ、BACEなど)の分子動態・機能の解明を中心に行ない、気分障害とADの共通病態基盤を明らかにする。 現在まで、培養OPCにおいてFGF2濃度依存的にNotchシグナルが活性化されること、逆にAPP切断によるAβ産生はFGF2低濃度でより活発に行なわれることが判明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FGF2は濃度依存性に飛躍的に培養OPC数を増加させる。これは細胞分裂の増加と細胞死の減少によるものであった。また、培養OPCはFGF2濃度依存的に、未分化の前駆細胞の状態を維持した。そこでNotchシグナルを検討すると、FGF2濃度依存的にNotch1タンパク質の発現が上昇し、その活性化の証拠となるNICD(N末断端抗体で認識)が飛躍的に増加した。すなわちFGF2増加でNotchシグナルが活性化(γセクレタ―ゼで切断)され、細胞の未分化状態が維持される可能性を示唆した。培養OPCには、FGF2濃度に関係なく、大量のγセクレターゼが発現している。そこで次にAPP代謝に関して検討を行った。面白いことにNotchシグナルとは異なり、APPの発現はFGF2濃度依存的に減少し、Aβ40、特にAβ42産生がFGF2低濃度で増加した。これらの結果は、NotchとAPPのγセクレターゼによる切断が必ずしも同じメカニズムで行なわれている訳ではないことを、成体由来の初代培養の内在性タンパク質のみで初めて示せた点において革新的である。 以上の結果を特許出願した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の重要な課題はin vivoにおけるOPCとAD病理の関連について証明することである。灰白質に大量に存在するOPCと灰白質ミエリン化の関連、その異常メカニズムによる気分障害やADの発症機序を、培養OPCから得られた手がかりを基に解析していく。 (1) Ownby RL et al. (2006) Arch Gen Psychiatry 63:530. (2) Hayashi Y (他2人) Tatebayashi Y (2011) Mol Psychiatry 16:1155 (Image invited). (3) Hayashi Y (他4人) Tatebayashi Y (2011) Mol Psychiatry 16:1156-58. (4) Hayashi Y (他3人) Tatebayashi Y (2012) PLoS ONE 7: e33019. (5) Tatebayashi Y et al. (2012) Transl Psychiatry 2:e204. (6) Benes FM et al. (1994) Arch Gen Psychiatry 51:477. (7) Braak H & Braak E (1996) Acta Neuropathol 92:197. (8) 楯林義孝(2013)日本認知症学会誌. 27:151. (9) Nihonmatsu-Kikuchi N(他1人) Tatebayashi Y (2013) J Alzheimer’s Disease. 37:611. (10) 楯林義孝ら他; 特許 2007-174147.
|
Causes of Carryover |
研究協力者との打ち合わせの必要が生じ、第111回日本精神神経学会学術総会に参加すると同時に研究打ち合わせを行なった(旅費)。本研究の遂行のため、研究補助員を1名雇用したが、予想以上の支出となった(人件費)。その分物品費購入額が少なく、人件費が増加した。雇用の関係で健診費用や振込料金などのその他の費用が必要となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き人件費、またそのために必要なその他の支出の引き当てが必要となる予定である。
|