2015 Fiscal Year Research-status Report
うつ病における13C-トリプトファン呼気ガス検査の有用性に関する検討
Project/Area Number |
15K15439
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
功刀 浩 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所疾病研究第三部, 部長 (40234471)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 安定同位体 / 呼気ガス検査 / トリプトファン / キヌレニン / うつ病 / 脳脊髄液 / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大うつ病の炎症ーキヌレニン仮説に基づき、同疾患の診断や類型化に役立つバイオマーカーとして、安定同位体でラベルしたトリプトファン(13C-トリプトファン)服用後の呼気ガス検査の有用性について検討することを目的とする。さらに、この検査が、脳内のトリプトファンやキヌレニン濃度と関連するか否かについて脳脊髄液検体を用いて明らかにしたい。今年度は、まず18名の大うつ病患者(10名は未服薬患者、8名は服薬)と年齢・性がマッチした24名の健常者に対して13C-トリプトファン呼気ガス検査を行った。精神医学的評価は、精神疾患簡易構造化面接法に基づいた面接を行いDSM-IVに基づいて診断し、重症度はハミルトンうつ病評価尺度による症状評価を行った。呼気ガス検査当日は、0時以降絶食とし、午前10時に採血して肝機能など生化学的検査を行い、13Cで標識されたトリプトファン150mgを服用し、服用直前~180分後まで計10回継続的に呼気を回収し、赤外分光分析装置を用いて13C二酸化炭素13CO2濃度を測定し、時間経過をプロットした。その結果、うつ病患者では健常者と比較して安定同位体の排出量が有意に高く、トリプトファンーキヌレニン経路が活性化していることを支持する結果を見出した。なお、呼気ガス排出量は血漿中のトリプトファン濃度はと相関していたが、うつ病重症度と有意な相関はみられなかった。以上の結果を論文として発表した(Sci Rep, 2015)。その後、さらに脳脊髄液中のキヌレニン経路の分子や神経炎症との関連を検討すること、他の精神疾患での検討を行うことを目的として、大うつ病患者13名、統合失調症患者5名、健常者8名を対象に呼気ガス検査とともに脳脊髄液採取を行った。予備的検討では、大うつ病患者、統合失調症患者ともに、健常者と比較して13C二酸化炭素排出量が多い傾向を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度までに40名の大うつ病患者(うち20名を未服薬患者)と40名の健常者のデータを収集して検討する計画であったが、年齢・性がマッチした患者18名と健常者24名が集まった段階で、患者群と健常者群との間で呼気ガス検査結果が明らかに異なることが判明したため、早めに論文化を行った。論文はScientific Reportsという一流雑誌に発表できたことから、達成感は高く、この分野で日本発の独創的な報告ができたと自負している。ただし、その後のデータ収集では、脳脊髄液採取者に限定して呼気ガス検査を行ったため、それほど被験者数が増えていない(大うつ病患者13名、統合失調症患者5名、健常者8名)。また、未服薬患者も10名程度にとどまっている。さらに、キヌレニン経路の分子(キヌレニン、キノリン酸、キヌレン酸)について市販のキットによる測定を試みたが、血液では測定可能であったが、脳脊髄液では測定困難であり(濃度が低く、測定レンジに入ってこないためと思われる)、当初の予定通り、高速液体クロマトグラフィーなどの他の方法が必要なことが判明している。以上、論文発表を済ませるなど達成度は高く、研究は概ね計画通りに進んでおり、26名から脳脊髄液試料と呼気ガス結果の両方を得ることができたのは、大きな進展である。しかし、データ収集は必ずしも目標数に達していないこと、脳脊髄液中のキヌレニン系分子の測定の目途が立っていないことなどから、「研究は概ね順調に進んでいる」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も被験者のリクルートを進め、少なくとも大うつ病群、健常者群それぞれ20名については、脳脊髄液と呼気ガス検査の両者を施行した検体収集を行う。27年度に大うつ病13名、健常者8名について既に収集できたため、28年度終了までに十分に可能であると考えている。その後、血液と脳脊髄液中のトリプトファンとキヌレニンの濃度について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定を行う。それによって、トリプトファンからキヌレニンに代謝される速度(キヌレニン/トリプトファン比から推定)と呼気ガスでの13C二酸化炭素排出量との相関をみることによって、呼気ガス検査がこの経路の活性化と関連することのエビデンスを得る。また、炎症との関連をみるために、血液中や脳脊髄液中の炎症性サイトカインについて、IL-1, IL-6, TNF-αなどの複数のサイトカインを同時に測定できるELISAキットを用いて測定する。それによって、トリプトファンーキヌレニン系の活性化と関連する炎症性サイトカインを特定する。炎症のマーカーであるCRPについても測定して関連をみたい。さらに、呼気ガス検査の実用化に向けて、食事摂取の影響を明らかにするために、健常者10名については早朝空腹時と食事摂取後の2回測定し、食事による呼気ガス検査所見に対する影響を調べる。抗うつ薬の未服薬例をできるだけ多く集め、治療薬の影響についても明らかにする。当初の計画にはなかったが、統合失調症患者のデータ収集も行い、うつ病と異なるかどうかについて明らかにしたい。28年度は、以上についてまとめ、第2報の論文発表を行いたい。
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