2016 Fiscal Year Research-status Report
膵癌における新たな細胞内分子ターゲットによる生物学的診断・治療法の開発
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15K15482
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 上級主任研究員 (60371085)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 膵癌 / 治療ターゲット分子 / 生物学的診断・治療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、pXY発現により影響される細胞への影響を分子生物学的に解析し、分泌型ルシフェラーゼ安定導入細胞株の樹立を試みた。 pXYの発現・活性化は、細胞内抗酸化能に強く影響を与えていた。抗酸化能をつかさどる転写因子であるNrf2を強く活性化し、その下流にある様々な抗酸化分子(カタラーゼ、ヘムオキシゲナーゼⅠ、チオレドキシンなど)を上方制御していた。この事実は、細胞が酸化ストレスに対して基本的な抵抗性(さらには、低酸素に対する抵抗性)を与えることを示唆していると考えられた。pXY刺激は、同時に抗アポトーシス分子であるBcl-xL、Bcl2を活性化(リン酸化)していた。また同時に、細胞生存のキーとなるAkt/PKB分子のリン酸化(活性化)を誘導していた。これらの事実は、癌細胞が様々な刺激によるアポトーシス細胞死(プログラム細胞死)から免れ、かつ強い生存能を有していることを示唆している。さらに、Fasリガンド、Fasの発現をも抑制したことから、pXYはリガンドを経由した細胞傷害に対しても抵抗性を与えていることが考えられた。FasリガンドあるいはFasは、肝のみならず膵癌細胞においても発現が高まることが報告されているため、pXYはそれらに対する特異的な防御機構であると推定された。 しかしながら、pXY刺激は、細胞増殖に関わる分子(STAT3のリン酸化、サイクリンD1およびPCNA発現にて評価)の活性には影響を与えてはいなかった。つまり、pXYは、細胞の増殖性を刺激している可能性は低いと考えられた。 また、分泌型ルシフェラーゼを膵癌細胞株に安定導入することを試みたが、十分な発現量を示す細胞を得るのに時間がかかり、それ以降の実験に進むことが出来なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度までの成果を含めた研究進捗は、以下のようになっている。 1)正常な膵組織においてはpXY蛋白質及びpXY遺伝子の発現は検出できなかった。 2)ヒト膵癌を含む様々な癌細胞株を用いて、膵癌細胞におけるpXY蛋白質発現を確認した。肝細胞癌細胞、大腸癌細胞、扁平上皮癌細胞、神経芽細胞種細胞、腎癌細胞、膵癌細胞にて検討を行ったが、膵癌細胞株にて最も強い発現を確認した。他の癌細胞においては、中程度の発現を認めたのみであった。 3)pXY分子発現量とともに活性化に必要とされるpXY分子自体のリン酸化を確認した。pXY分子のSer351及びSer403に対するリン酸化を検討したが、リン酸化は認められなかった。このため、膵癌細胞におけるpXYの活性化には、これらの部位のリン酸化が不要な可能性、あるいはこれら部位以外のリン酸化が必要である可能性等が考えられた。 4)pXYを膵癌に対するバイオマーカーとして使用するために、培養液中、血中におけるpXY測定条件を検討した。 5)pXY発現により影響される細胞の生物学的機能の解析を行った。pXYの発現・活性化は、細胞内抗酸化能に強く影響を与えていた。様々な抗酸化分子を上方制御することで、酸化ストレスに対する基本的な抵抗性を与えていることが示唆された。同時に抗アポトーシス分子の活性化、細胞生存関連分子Akt/PKB活性化、さらにはFasリガンド、Fasの発現抑制を誘導したことから、癌細胞が様々な刺激による傷害から免れ、強い生存能を有していると考えられた。pXY刺激は、細胞増殖に関わる分子の活性には影響を与えてはいなかった。また、分泌型ルシフェラーゼを膵癌細胞に安定導入することを試みた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、膵癌における特性を考慮し、以下の検討を予定している。 1)pXYの生物学的意義を確認するために、細胞をもちいて実際に細胞生存能・細胞増殖能・細胞傷害に対する抵抗性を評価する。また、pXY遺伝子をノックダウンすることにより、pXYの直接的な影響かどうかを検討する。 2)分泌型ルシフェラーゼ(CypridinaあるいはGaussiaルシフェラーゼ)安定発現株を用いて、細胞実験を行う。すでに、細胞培養にて、培養液への細胞からのpXY漏出の有無、培養液に漏出したpXY測定法及び血中のpXY測定法の基礎的な検討を開始しているが、より適切な測定系に改善する。培養液への細胞からのpXYの分泌と細胞増殖との関係を確認し、膵癌細胞数の増加予測に使用可能かどうか、生物学的な評価に利用可能かどうかを確認する。細胞死により受動的に細胞外に放出している可能性があるため、その影響も検討する。血中のpXY測定では、アルブミン、トランスフェリンなどの物質が測定を阻害していることが予想されたため、それら蛋白質の除去の要不要などを検討する。また、使用する抗体などを検討し、ELISA法による検出可能な限界濃度を高めることを試みる。 3)分泌型ルシフェラーゼ(CypridinaあるいはGaussiaルシフェラーゼ)安定発現株をもちいて、マウスを用いた動物実験をおこなう。生体イメージング装置を用いた、pXY陽性癌細胞の進展をイメージングし、同時に全血あるいは血清での測定を試み、pXYの生物学的あるいは臨床的な意義を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度は、前年度に引き続き、主としてpXYが細胞へ与える影響を分子生物学的に解析し、また分泌型ルシフェラーゼを安定的に発現した膵癌細胞株の作製を試みた。腫瘍細胞として重要と考えられる抗酸化能、抗アポトーシス能、細胞生存能、細胞増殖能に関連する分子の発現あるいはリン酸化・活性化に対する影響を明らかにすることに成功した。しかしながら、その生物学的影響に関しては、細胞実験においても、あるいは動物実験においても確認することが出来なかった。また、分泌型ルシフェラーゼ安定発現株は作製できたが、それを用いて培養細胞での有用性の検証実験、マウスへの移植モデルを作製することができなかった。次年度は、細胞培養による検証、マウス移植モデルからの血液サンプルによりルシフェラーゼ活性が測定可能かどうか等を検討する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度遂行できなかった実験に対して、研究予算を使用する。 来年度は、分泌型ルシフェラーゼ安定発現株を用いて、培養細胞での有用性の検証実験、マウ腫瘍細胞に対するpXYの生物学的影響(生存能、増殖能、傷害性など)を検討し、マウスへの移植実験を行う。そのため、細胞培養液、ディスポーザブル、試薬などを購入する。
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