2015 Fiscal Year Research-status Report
神経回路網の復元をめざす新たな脊髄損傷治療法の開発
Project/Area Number |
15K15550
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西尾 健資 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70303790)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 軸索再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経では、物理的損傷や血管障害等により、白質が損傷されて軸索が切断されると、初期反応として切断された軸索は再生を開始するが、その初期反応は長続きせずに終了して、損傷部を超える軸索再生は起こらない。すなわち、損傷により破壊された神経ネットワークは復元することなく、失われた神経機能は永続して後遺障害が残る。 本研究は、損傷部を超える軸索再生を誘導して、神経ネットワークの復元をめざす新たな方法の開発を目的とする。 研究代表者は、従来の研究でfetal brain extractを脊髄損傷部に添加することにより、脊髄白質切断後数時間以内に損傷部を超える軸索再生を誘導できることを発見しているが、fetal brain extract中のいかなる分子がこの現象に関与しているのか不明であった。そこで、27年度には、シグナル伝達系の阻害実験を行うことにより、主となるシグナル伝達系あるいはシグナル分子を突き止めるために、成熟ラット脊髄切断モデルに対して各種シグナル伝達阻害剤を局所投与して、損傷部を超える軸索再生の成否を検討した。ただし、成熟ラット脊髄切断モデルを用いて損傷部を超える軸索再生の成否を検討するに当たり、100%の成功率でないかぎり、投与した阻害分子によって阻害されたと判定できないことから(100%成功は不可能であるので)、軸索再生成否の判定基準に、損傷部のアストロサイト活性化を加えて検討した。 その結果、EGF受容体拮抗薬、FGF受容体拮抗薬により、軸索再生をサポートするアストロサイトの活性化が抑制されており、損傷部を超える軸索再生も起こりにくい印象であった。この結果を基に、28年度では、慢性ラットモデルへの適用を予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
成熟ラット脊髄切断モデルを用いて損傷部を超える軸索再生を誘導することは、大いに脊髄白質切断手技に依存する実験系である。そこで脊髄白質切断手技に習熟することにより、成功割合を増加させようと試みたが、100%成功までは及ばず、投与分子と切断手技の複数変数解析となり、結果の判定に苦慮する面が多かった。 そして、脊髄白質切断手技への習熟に予想以上に長い時間を要してしまったことが、予定する実験計画よりも遅れた理由である。これが、薬剤の結果判定にも時間を要する原因にもなった。 しかし、EGF, FGF等の既知分子の投与により、軸索再生に成功しており、大前提を覆すような進捗状況ではない。。
|
Strategy for Future Research Activity |
この成熟ラット脊髄切断モデルは、急性期実験モデルであるが、成熟ラット脊髄切断の慢性期モデルに対して、損傷部を切除して損傷部を超える軸索再生が誘導できるか否かが、本研究の最大の課題である。 慢性期モデルは、急性期実験モデルに比して、損傷部が線維化して収縮した状態で器質化(アストログリア瘢痕形成)していることが知られており、急性期実験モデルよりもさらに克服すべき課題が多いと考えられる。 既知分子投与とともに、組織接着剤の開発などの創意工夫も必要と考えられる。
|
Causes of Carryover |
成熟ラット脊髄切断の急性期実験モデルにおいて、軸索再生に対して作用するfetal brain extractに含まれる有効分子を明らかにする目的で、シグナル伝達系の阻害分子を投与したが、軸索再生の成否は脊髄白質切断手技に大きく依存するため、この脊髄白質切断手技に対する習熟に長い時間がかかった。 有効分子として、EGF, FGF, neuregulin等の複数の分子が候補に挙げられたが、これらの既知分子を用いた実験はまだ、実験数が少なく、次年度に持ち越す予定である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
EGF, FGF, neuregulin等の複数の成長因子を購入して、局所投与する予定であり、次年度使用額はこれらの試薬購入で確実に消費されると予想される。
|