2016 Fiscal Year Research-status Report
疾患特異的iPS細胞を用いた悪性高熱症の発症機構の解明と新規診断法・治療法の開発
Project/Area Number |
15K15574
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
森崎 浩 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60182226)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 悪性高熱症 / iPS細胞 / 骨格筋 / 麻酔薬 / mmRNAトランスフェクション |
Outline of Annual Research Achievements |
今回の研究では、麻酔を契機として発症する致死的疾患である悪性高熱症に関して、疾患特異的iPS細胞を用いて解明することが目的である。2年目である平成28年度は、前年度までに十分に改良できなかったヒトMyoD遺伝子の強制発現系を用いた骨格筋分化誘導技術の向上を図った。この評価実験の結果、既報の分化誘導法以上の誘導効率を示すことが明らかとなった。これにともない、疾患特異的iPS細胞を用いた生化学的解析について、より再現性の高いデータが得られるようになった。さらに、既存の麻酔薬およびカフェイン処理等による骨格筋内カルシウム濃度をイメージング法によって解析できるようセットアップを行うとともに、電気生理的活性を評価するための多点電極アレイ記録法による培養法を確立した。このように生化学・生理学的解析が進行したため、次年度以降に疾患表現型を定量解析するだけの準備が整ったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までは、iPS細胞からの骨格筋分化誘導効率が低かったために、疾患病態の再現を行うことは難しかった。しかしながら、平成28年度はmRNAトランスフェクションの技術を新規に導入したことで、成熟した骨格筋への分化誘導効率が顕著に向上した。これにともない、分化誘導後の遺伝子発現検討においては骨格筋として再現性の高い実験結果が得られるようになった。さらに生理学的解析として、細胞内カルシウムイメージング、および細胞の電気的活性を測定できるようになった。 具体的には、主要原因遺伝子であるリアノジン受容体(RYR1)についての免疫染色を行ったところ、健常人骨格筋細胞と疾患由来骨格筋細胞とで、その染色シグナルの違いが現れた。これはRYR1の細胞内局在や存在量に疾患特異的な相違が生じている可能性が高いことを意味している。さらに、悪性高熱症(MH)誘発を疑似的に行うものとして、骨格筋へのカフェイン処理行った。この処理の過程で、筋小胞体からのカルシウム放出についてライブイメージングを行い、定量解析した。実際に、疾患iPS細胞由来の骨格筋細胞についてはカフェイン処理後のカルシウム濃度の上昇が、健常人由来細胞より増加する傾向を捉えている。一方で、神経細胞に分化誘導し、種々のMH誘発処理を行っても顕著な変化は認められなかった。 以上から、平成28年度に構築した骨格筋分化誘導・解析技術を用いることで、次年度以降に表現型解析の定量化や治療薬検討が行える状態となった。 そのため、当初の研究予定をおおむね遂行できていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
RYR1遺伝子における変異箇所がそれぞれ異なる、樹立済iPS細胞株を複数用いて、カフェインに対する応答性とダントロレンによるレスキュー実験を行う。具体的には、MH誘導時に、RYR1変異と骨格筋表現型がどのように相関するかを細胞内発現遺伝子解析、細胞形態解析、細胞内カルシウム濃度測定、多点電気アレイを用いた電気生理活性測定によって評価する。さらに、カフェイン以外のMH誘発薬剤処理後応答との相関性も検証することで、MHの有用な診断法へのアプローチとする。
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