2016 Fiscal Year Research-status Report
大域的な視覚情報処理の進化と発達:比較認知発達科学からのアプローチ
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15K16012
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Research Institution | Niigata University of International and Information Studies |
Principal Investigator |
伊村 知子 新潟国際情報大学, 情報文化学部, 准教授 (00552423)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アンサンブル効果 / 鮮度 / 質感 / チンパンジー / 比較認知科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、大域的な視覚情報処理の能力が、生後どのように発達するのか、どのようにしてヒトで特に進化してきたのかについて、ヒトの乳児と成人、及びチンパンジーを対象に、比較認知発達の視点から検討することである。 平成27年度は、これまでの研究成果とは異なり、チンパンジーも、大域的な視覚情報処理能力の1つである、大きさの「平均」の知覚(アンサンブル効果)が可能であることを示した。そこで、平成28年度は、大きさ以外の属性でも「平均」の知覚ができるかどうかについて、チンパンジーとヒトを対象に検討した。京都大学霊長類研究所のチンパンジー2個体とヒト8名を対象に、キャベツの葉の表面が、時間経過とともにシワシワに変化していく様子を撮影した画像を用いて、「鮮度」の「平均」を知覚する能力について調べた。 実験では、「鮮度」の異なる画像が左右に1枚ずつ画面に呈示されるSingle条件、6枚ずつ呈示されるHomogeneous条件、6枚ずつだが3種類の異なる鮮度の画像が2枚ずつ含まれたHeterogeneous条件で、鮮度のより高い方を選べば正解とする課題をおこない、正答率を比較した。もし、「鮮度」の「平均」が知覚できるのであれば、Heterogeneous条件でも他の2条件と同様、高い正答率を示すはずである。その結果、ヒトもチンパンジーも、Single条件、Homogeneous条件よりも、Heterogeneous条件で有意に高い正答率を示した。したがって、「鮮度」の平均を知覚している可能性が示唆された。 以上の結果から、チンパンジーは、大きさ以外の属性である「鮮度」についても、「平均」の知覚をすることが示された。したがって、大域的な視覚情報処理の一部は、ヒト以外の動物においても共有されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、平成27度の結果をもとに、チンパンジーやヒトの成人を対象に、大きさ以外の属性についても平均の知覚が可能であるかどうかについて検討した。その結果、チンパンジーもヒトも「鮮度」の平均の知覚が可能であることが示された。 これらの実験は、当初の計画にはなかったものだが、アンサンブル効果という、大域的な視覚情報処理の1つが、チンパンジーとヒトで共有されていることを確かめるために実施された。その結果、「鮮度」という属性についても再び、平均の知覚が可能であるという結果が得られたことから、平均の知覚(アンサンブル効果)が、ヒト以外の動物にも共有されていることを示す証拠を得ることができた。本研究の目的の1つとして、「大域的な視覚情報処理がどのようにしてヒトで特に進化してきたのか」を明らかにすることが挙げられるが、平成27年度と平成28年度の成果から、大域的な視覚情報処理は、必ずしもヒトで特に進化したとはいえず、その一部は、チンパンジーとも共有されていることが明らかになった。したがって、本研究の目的の一部は、達成することができた。 また、「鮮度」のアンサンブル効果については、これまでヒトを対象とした研究でも検討されたことがなく、本研究から、ヒト、チンパンジーの双方において、アンサンブル効果が非常に幅広い属性において生じるものである可能性を示すことができた。この成果は、当初の計画以上に進展が進んだとも評価できる。 一方で、当初予定していた、ヒトの乳児を対象とした大きさのアンサンブル知覚の検討については、刺激や装置などの手続きの変更を検討してきたが、乳児の視覚特性に合わせた手続きの調整が予想以上に難しく、十分に進展しているとは言えない。今後、対象とする月齢の変更も含めた計画の微修正が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度と平成28年度の研究成果から、大域的な視覚情報処理の能力が、「どのようにしてヒトで特に進化してきたのか」という目的については、ある程度達成することができた。そこで、今後は、「生後どのように発達するのか」という点をさらに明らかにすべく、ヒトの乳幼児を対象とした研究を推進する。 当初の計画では、乳児を対象とすることで、大域的な視覚情報処理の能力の1つである、アンサンブル効果が、生後いつ頃から生じるのかについて検討することを目的としていた。これまでの研究では、4,5歳児を対象とした発達的研究はあったが、乳児を対象にその発達的起源を明らかにしたものはなかった。そこで、生後3ヶ月から12ヶ月の乳児を対象に、注視方向を指標とした選好注視法を用いて、大きさの「平均」の知覚について調べることを計画した。 ところが、予備実験において、2つの大きさの異なる円を左右に1つずつ呈示し、大きい円の方に対する選好注視が生じるかどうかを確かめたところ、注視方向には個人差があり、大きさの違いに対する選好注視を指標として用いることが困難であった。そこで、今後は、乳児の新奇な刺激に対する注視の偏りを利用した馴化-脱馴化法によるテストについても検討する予定である。 もし、手続きを変更しても選好注視を指標として用いることが難しい場合には、手続きは成人と同じものを用い、幼児を対象とすることも検討する。これまでのところ、幼児では、大きさ以外の属性のアンサンブル効果について検討されていない。そこで、大きさと鮮度のアンサンブル効果を調べることにより、平成27年度、平成28年度で得られた結果と直接比較することも可能である。また、得られた結果から、大域的な視覚情報処理が「生後どのように発達するのか」という問いに対して議論することも可能である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、平成28年度に乳児を対象とした研究を遂行し、完了する予定であったが、予想以上に手続きの調整に時間を要したため、平成28年度中の完了が困難であった。そこで、平成29年度は、対象を乳幼児に広げて研究を継続するよう、計画変更をした。 したがって、乳幼児の研究を円滑に進めるため、参加児への謝礼や研究補助員の雇用に必要な費用を確保する必要があり、平成28年度の研究費の一部を、平成29年度使用額に当てることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
参加児への謝礼と研究補助員の雇用に使用する。具体的には、計画変更のため、予備実験用に新たに必要となる参加者への謝礼として、1名につき2000円の謝礼を20名分を確保する。また、参加児の募集や実験スケジュールの管理、実験結果の送付を担当する研究補助員を1名、実験中の不測の事態に備えて、実験実施を補助するための研究補助員を若干名雇用する。研究補助員への謝礼は時給900円として1日6時間、週に2日雇用する。
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[Presentation] Chimpanzees (Pan troglodytes) can perceive the freshness of foods.2016
Author(s)
Imura, T., Masuda, T., Wada, Y., Tomonaga, M., & Okajima, K.
Organizer
The 2016 Joint meeting of the International Primatological Society and the American Society of Primatologists
Place of Presentation
Chicago, USA
Year and Date
2016-08-23
Int'l Joint Research
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