2015 Fiscal Year Research-status Report
ニューラルネットワークを応用した低線量放射線応答の解析
Project/Area Number |
15K16088
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
服部 佑哉 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 博士研究員 (30709803)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射線 / 培養細胞 / バイスタンダー効果 / ニューラルネットワーク / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
低線量の放射線が照射された培養細胞集団では、放射線が当たっていない細胞が存在し、細胞間シグナル伝達により照射細胞から非照射細胞へ照射影響が伝達するバイスタンダー効果が報告されている。本研究の目的は、バイスタンダー効果を、時間・空間的に変化する細胞間コミュニケーションの視点から理解することである。そのために、放射線によって誘発される細胞間シグナル伝達について、細胞集団中の動態とこの動態が放射線応答に及ぼす影響をニューラルネットワーク等の数理モデルを用いて解明する。 平成27年度では、培養細胞集団中の各細胞の放射線応答と、細胞間シグナルの濃度分布を計算可能な数理モデルを構築した。モデルでは、細胞集団における(1)放射線照射、(2)照射によって誘発された細胞間のシグナル伝達、(3)放射線照射と細胞間シグナルによる細胞の損傷、(4)損傷によって引き起こされる細胞周期変調・細胞死について、これらの時間変化を細胞ごとに表現した。 モデルについて、実験で計測されている現象を表現できるか確認した結果、(1)DNA二本鎖切断数の時間変化、(2)バイスタンダー効果によってDNA二本鎖切断が現れた細胞数、(3)細胞周期別の生存率の線量依存性の3つの異なる実験について、放射線に対する細胞応答を十分に再現出来た。次に、線量を0.1~5Gyに変えて、モデルが示す応答を調べた結果、バイスタンダー効果によって細胞周期変調を起こした細胞数は、照射した線量に対して非線形に増加することが分かった。さらに、細胞間シグナル伝達の経路を変えて計算した結果、伝達経路に依存して、細胞周期停止が起こる時間や起こりやすい細胞周期停止の種類が異なった。以上により、構築したモデルは、実験結果と十分に比較可能で、細胞間コミュニケーションの動態に対する放射線応答の影響を解析可能であることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の計画は、次の(1)~(3)であった。(1)ニューラルネットワークをベースとした放射線応答モデルの構築:ニューラルネットワークの細胞間伝達と細胞の活動を放射線応答に置き換える。細胞の放射線応答は、細胞周期変調、細胞死、染色体異常、突然変異、がん細胞化を扱う。(2)実験データに基づいた放射線応答モデルのパラメータ値の決定:従来研究により計測されている放射線を照射していない細胞集団や照射細胞集団の生存率、細胞周期の時間変化、DNA損傷量を基に、モデルに含まれるパラメータの値を設定する。(3)培養細胞を用いた放射線照射実験の条件決め:線種や線量、照射部位、障害物の形、応答が現れるまでの時間、培養条件等を照射後の細胞を経過観察しながら検討する。 (1)~(2)は順調に進行し、研究成果を論文として発表した。(3)は、線量、培養細胞の数、応答が現れるまでの時間の基礎的な3つの条件を調べたが、その他の条件については着手出来なかった。一方、平成28年度で実施予定の自己組織化マップについて、ベースとなるプログラムを作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、次の3つを計画している。(1)細胞間コミュニケーションの動態推定と、これら動態と放射線応答の関係性の推定:27年度で決定したモデルのパラメータ値を基に、モデルを使って細胞間コミュニケーションの動態を推定する。また、パラメータ値を変えた時に、モデルの応答がどのように変化するかを調べ、細胞間コミュニケーションの動態と放射線応答の関係性を推定する。(2)培養細胞を用いた照射実験:(1)で推定した結果を検証するために、27年度で決定した実験条件を基に、放射線照射実験を行う。(3)放射線応答の新しい分類解析:細胞間コミュニケーションを指標として、自己組織化マップを用いて、細胞集団中の個々の細胞が示す放射線応答を分類する。分類結果と従来の基準で判別されてきた放射線応答を比較することで、細胞間コミュニケーションと放射線応答を結びつける新たな関連性を推定する。 (2)を実施する前に、27年度で調べることが出来なかった実験条件を引き続き検討する。したがって、(2)の実験が遅れる可能性がある。そこで、(3)は、本科研費で実施する実験だけではなく従来研究で示されている実験結果も対象にし、(2)と同時に進める。
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Causes of Carryover |
論文の掲載費が当初の予定と変わったことと、計画していた実験を全て実施出来ず消耗品購入額が減ったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度で実施出来なかった実験を28年度で実施する。したがって、その実験に必要な消耗品を購入する。
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Research Products
(3 results)