2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16143
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
岩井 久典 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70733765)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 褐藻の生殖生長 / フコステロール / 性ホルモン |
Outline of Annual Research Achievements |
藻場を形成する胞子体は、微視的な配偶体の生殖生長及び雌雄配偶子の受精を経て形成される。ゆえに、褐藻の生殖生長は、藻場の再生・保全を考える上で重要な生長段階の一つといえる。工場排水等に含まれる陸由来のステロール類が河口域の水生生物へ生殖機能障害を引き起こした報告があるが、褐藻の生殖生長における陸由来の天然有機物の影響は不明な点が多い。本研究では、褐藻の生殖生長に関わる細胞内外のホルモンとして、ステロールの影響を検討した。褐藻はアルギン酸を主成分とする独特な細胞壁を有しており、この粉砕の程度が細胞内脂質の抽出に影響を与えると考えた。そこで、乳鉢と海砂を用いて細胞を粉砕しながら脂質の溶媒抽出を検討したところ、抽出液中に未粉砕の細胞は見当たらず、同試料中のステロールの抽出量の誤差も10%程度となり、安定した抽出が可能となった。褐藻配偶体を用いて、栄養生長と生殖生長によるステロールの分析を試みたところ、双方に含まれるステロールは90%程度がフコステロールであった。微量のコレステロールが検出される場合もあったが、これはフコステロールの前駆物質と考えられている。また、生殖生長した試料に含まれるフコステロールの量は、栄養生長のものに比べ40%程度減少しており、生殖生長に伴うフコステロールの代謝が示唆された。また、生長状態に関係なく、ほぼ全てのステロールが遊離型として含まれていた。さらに、細胞内の他の脂質の影響も検討したところ、生殖生長した試料に含まれるトリアシルグリセロールの量が、栄養生長のみのものと比べ半分程度に減少していることを見出した。これは、細胞の変化を伴う生殖生長におけるエネルギーの消費に起因すると考えられる。これらの結果は、褐藻の生殖生長におけるフコステロールの性ホルモンとしての寄与を示していると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたように、褐藻配偶体に含まれる全ステロールの抽出及び定量・定性方法を確立し、生殖生長した試料でステロール量が減少することを確認した。含まれるステロールは、ほぼ遊離型のフコステロールで、生殖生長した試料からも他のステロール及びエステル型のフコステロールは検出されなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、本年度は陸域由来のステロール類を細胞外の性ホルモンとして用いて、褐藻の生殖生長への影響を検討する。これまでの研究で確立した手法により、細胞中への陸域由来のステロール類の摂取も定量的に検討する。
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Causes of Carryover |
当初計画していた学会発表及び論文投稿が前年度中に間に合わず、使用しなかった。また、褐藻配偶体株も当初保有していたもので足り、新たに採取するための旅費も使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初購入を計画していた学会旅費等に使用する。
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