2015 Fiscal Year Research-status Report
茅資源の伝統的利用技術に着目した持続的建築生産のトレーニングプログラムの実践
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15K16182
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
釜床 美也子 香川大学, 工学部, 助教 (00635948)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 茅 / 伝統構法 |
Outline of Annual Research Achievements |
茅を利用する生活技術の調査に関しては、対象地域の1つの徳島県貞光家賀道上に加え、新たに茅葺き職人が見つかった高知県梼原町上本村、香川県小豆島町肥土山でも同様の調査を行った。家賀道上では、個人で維持する茅利用の方法を明らかにできた。家賀道上は肥料用の草を収集する個人所有のコエカリノ(肥刈り野)に紛れるススキを各戸で蓄えて屋根を葺いた集落で、そのススキは冬季の強風対策の大垣としても2次利用されていたことが分かった。現在は職人1名が約1反の近隣の休耕田を茅場に変えることで、集落最後の茅葺きとなった自宅を個人で維持していた。上本村では、職人集団で維持する茅利用が見られた。同集落は1970年頃までは住民の相互扶助で茅資源を利用していたが、現在は茅葺き職人6~7名が元牧場を茅場にして10日かけて1500~1600把の茅を採集するようになっていた。肥土山では、住民の新しい相互扶助の形成が見られた。肥土山はもともと個々の家族で3反ほどの茅場を維持していた集落だが、近年茅葺きの農村歌舞伎舞台の葺き替えに際し、新たに近隣の約7反の土手を茅場にし、茅刈りや葺き替えを住民の相互扶助で行うようになったと分かった。簡易工作物での茅利用に関しては、予定の6地域のうち大分の湯の花製造のための小屋と兵庫のウド小屋の調査を行った。これらの成果により、未解明な茅葺きの技術的幅を示すことができると考える。 茅利用プログラムの実践に関しては、試験的に四国各地で6回のワークショップを開催し、参加者へのアンケートによりその効果を検証した。その結果、技術的知識が十分得られなくても体験の面白さや交流に対する評価が高い傾向、また、回を重ねることで関連する他の行事に関心を持つ傾向、が見られ、持続可能な資源利用を目指すプログラムの考案に向けた重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査研究に関しては、予定通り①茅利用を維持する際の課題の整理、②利用技術の調査、③資源調査、のすべてに着手し、対象地域の1つであった徳島県貞光家賀道上に加えて高知県梼原町上本村、香川県小豆島町肥土山についても調査を実施できた。また、茅利用プログラムの実践に関しても試験的に四国各地で6回のワークショップを開催し、ワークショップへの様々な協力者も開拓する事ができた。以上のように、本研究で想定した様々な研究内容に一通り着手したことで、調査方法の妥当性の検証、実施可能性の検証、想定される結果の確認ができたため、今後は事例調査を増やし、今年度見られた課題を解決する事で順調に進展すると思われる。ただ、次年度以降、全国の他の事例調査と平行してもう1つの対象地域である三好市祖谷山村落合の調査を行うため、2年目のスケジュールがタイトである点、予算の関係上データロガーを用いた温熱環境評価を中止した点で「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、調査研究として、全国の他の事例調査と平行してもう1つの対象地域である三好市祖谷山村落合の調査を行う。また、初年度の研究の過程で茅を用いた簡易工作物の構法については全国に様々な事例が見られることが分かったため、新たな調査対象を加えることを検討する。そして、2年目までの各現地調査研究の結果を総合的に分析し、提供プログラムの内容を決定する。 2年目9月以降3年目にかけては、予定通り資源を利用する生活技術の習得希望者に対し、茅場の育成、茅刈り、乾燥、貯蔵、屋根葺き、屋根の修繕、野焼き、等の一連の関連技術のワークショップを開催し、その効果の分析・評価を予定通り行う。
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Causes of Carryover |
初年度に全国的な事例調査を行う予定であったが、近隣の四国内で比較分析に有効と思われる調査対象地が2件新たに見つかったため、初年度はその調査を優先して実施し、全国的な調査はほとんど行っていない。そのため、初年度の旅費や人件費は、当初の想定より極めて少なくて済んだ。物品費については、データロガーを用いた温熱環境調査をArcGISを用いた空間解析に変更したため、支出が増加している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
持ち越した全国的な事例調査を2年目に実施予定であるため、今後初年度以上の旅費や人件費の支出が見込まれる。また、ワークショップの運営にあたり、新たな消耗品の支出が見込まれる。
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