2016 Fiscal Year Research-status Report
行動工学の視点に立つ授業観察システムの開発:筆記量と移動量計測を用いて
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15K16266
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
吉岡 昌子 愛知大学, 文学部, 准教授 (10584097)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 行動工学 / ノートテイク / 時系列計測 / 授業観察 / 移動行動 / 大学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目である2016年度は、前年度に試作した大学の授業観察システムを実用段階に進めるため、装置改良を行った。観察の対象は学生のノート筆記および教員の移動行動である。試作段階では、学生の筆記反応の検出はペンに内蔵した機械式(接点常時閉式)スイッチをマウスのクリック回路に接続し、Excel VBAで信号を記録、グラフ化した。しかし、電子回路とプログラム上の問題からこの方法は測定エラーを起こすことがあった。またマウスの電源スイッチを装置のオンオフに利用していたため、操作性が低いという問題があった。そこで、トリステートICを組み込んで回路を再設計し、装置の外形を変更し、プログラムを修正することで、これらの問題を解決した。加えて、授業場面で複数の学生を対象にデータを収集する場合、多数のPC操作を必要とする試作システムは実用性が低い面があった。その対応として、市販のデータロガーを用いた記録方式を整備し、連続計測可能時間や操作の簡便性などに問題がないことを確認した。さらに、当初の計画にはなかったが、画像分析によって筆記された文字から筆記長を推測することを着想し、前年度の性能試験で得た筆記データを用いて手続きと精度を検討し、実用可能であることを確認した。一方、教員の移動量計について試作品では振動式スイッチを利用した。これは装置を小型化できる反面、スイッチが軽量すぎるため、移動以外の微細な揺れまで検出するという問題があった。そこで、金属錘によってスイッチの重量を調整し、固有振動数を減じた装置を追加試作し、反応検出の安定性を高めた。これらと並行し、3年目の最終年度に予定する模擬講義場面を対象とした実験の教材の一部を作成した。 これらの成果から前年度の試作段階で見つかった問題に対処し、大学の授業場面において、実際に観察システムを用いて学生のノート筆記と教員の移動量を計測する段階に到達できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目は当初の計画にしたがい、初年度に設計した大学の授業観察システムが抱えた問題を回路の再設計やプログラムの見直しにより解決することができた。また、データロガーの記録方式を整備することで、実際の授業場面での継続的な行動観察に装置を対応させることができた。また、新たな着想として、ノート筆記反応(画)数だけでなく、画像分析の応用により筆記データから筆記長を推測することが可能となり、学生のノート筆記を時系列でみた筆記量を反応数(画数)と筆記した長さの次元から捉えられるようになった。一方で、装置の改良に時間を要したため、2年目の目標としていた観察システムの実用試験を予定していた条件や規模で進めることができなかった。この点で当初計画を完遂するには至らなかったが、最も重要であった装置の問題を解決することができ、次年度の研究は当初計画通り始められる段階に至った。よって、本年度の研究の進展はおおむね順調であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目となる最終年度は、心理学の講義場面に、前年度までに開発した授業観察システムを導入し、模擬および現実環境で計測を行う。模擬環境では学生のノート筆記を分析の焦点とするため、講義は事前に録画する。2年目までに検討した講義内容や時間の設定にしたがい、複数の教授法(異なる視覚教材の利用)で同じ内容の講義を用意する。また、講義後に理解度をみるPCのテスト課題を準備する。2年目までに作成した基礎となるプログラムをもとに問題の難易度調整など細部を決定する。それらの作業が済み次第、実験を開始し、教授法の違いが学生のノート筆記と授業の理解度に及ぼす効果を調べる。分析項目は、学生のノート筆記が生じる機会、筆記時間、筆記内容、筆記の手がかりとなる教員の反応、ノート筆記と理解度との関係などを想定している。特に授業中のノート筆記の時系列データ(およびそれと教員の授業時の反応との関係)はこれまでのノートテイク研究では計測されていないことから、本実験でのデータ分析の主眼となる。現実環境での計測については、特定の操作を加えないベースライン条件の観察を基本とし、講義の進捗に影響しない範囲で短期の介入を導入する。なお、3年目の計画は当初案から2点を変更した。1点目はノート筆記の学生間に共通するパタンを分析するため、対象とする学生を少数事例からクラス全体の規模に増やすこと、2点目は教員の授業行動と学生のノート筆記との関係をより詳細に分析するため、教員の指標として、移動量以外に発話速度・内容、指差しなど非言語行動を追加することである。上記の計画のもと、模擬場面と現実場面で得たデータもとに、本研究で開発した大学の授業観察システムの有用性を評価する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は次の2つの理由から生じた。1点目として、計画では2年目は前年度に試作した観察システムを改良し、その実用試験を行う予定であった。しかし、装置の改良に時間を要したため、実用試験を原案の規模、手続きで実施することができなかった。そのため、予算に計上していた実用試験に関わる補助者・協力者への謝礼、音声データ(ノート筆記の題材として用いる)の書起こし費用が発生しなかった。2点目は、筆者が当該年度、海外の大学におり、データベース等の文献収集や装置改良で利用する研究環境が変化したことである。それにより、購入を予定していた文献の大半と装置部品の一部を、予算執行なしに入手することが可能となり、その費用を次年度に持ち越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は3年目の実験にかかる費用として使用する。3年目の計画は当初案よりも実験参加者の規模を増し、教員の授業行動の分析項目を追加するという変更を行った。その結果、実験参加者に対する謝礼、および、データ分析にかかる費用(教員の発話の書き起こしや行動指標の信頼性のチェックを依頼する記録作業の協力者への謝礼)が予算申請時よりも増えた。そのため、次年度使用額はこれらの増分の執行に当てる計画である。
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Research Products
(2 results)