2015 Fiscal Year Research-status Report
効率的な酸素と栄養の輸送機能を持つ人工血管網の構築技術の開発と設計理論の構築
Project/Area Number |
15K16330
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
古澤 和也 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (00510017)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | コラーゲンゲル / 血管網構築 / バリア機能 / 流動特性 / 血管内皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では様々な構造の人工血管網の構築技術を確立し、酸素や栄養の輸送機能を評価することで、効率的な酸素と栄養の輸送機能を持つ人工血管網の設計原理を確立します。平成27年度は「項目1:様々な人工血管網の構築とその構造解析」と「項目2:人工血管網を流れるモデル血液の流動特性の解析」について研究を遂行しました。 項目1の成果:コラーゲン水溶液をリン酸緩衝液中に透析することで調製される多管構造を持つコラーゲンゲル(マルチチャネルコラーゲンゲル:MCCG)を血管内皮細胞の足場素材として用いることで、人工血管網を構築する方法を確立しました。また、すでに開発されているMCCGの多管構造の制御方法と組み合わせることによって様々な構造の人工血管網を構築することに成功しました。培養日数の経過とともに、多管構造内部で血管内皮細胞が増殖し血管様の構造を構築することが確認されましたが、長期間培養を続けると組織中心部の細胞に細胞死が確認されました。これは、組織中心部での酸素や栄養が不足してしまったことなどが原因と考えられます。 項目2の成果:研究項目1で構築した人工血管網に培養液を送液することができるかどうかを、液体の排出速度を制御することが可能な電動マイクロピペットを用いて確認しました。実験の結果、0.007 mL/sから0.167 mL/sの範囲において人工血管網を壊すことなく送液することが可能であることを示すことができました。しかしながら、研究計画で予定されていた蛍光ビーズを含む培養液の送液実験はまだ達成されておりません。一方で、MCCG内部に構築された血管のイオンや分子の選択的透過性を評価するためのシステムを開発することに成功しております。このことにより、人工血管網の液体の輸送経路としての機能評価に加え、血管内部を流れる液体中成分の血管外組織との交換を評価することが可能となりました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は様々な構造の人工血管網を構築しその構造を解析すること(研究項目1)と、人工血管網の構造がモデル血液の流動挙動に与える影響について調査すること(研究項目2)を達成目標としておりました。 研究項目1では、様々な多管構造のMCCGをテンプレート細胞足場素材として用いることで、様々な構造を持つ人工血管網を構築する方法を確立することができました。それぞれの人工血管網の構造はテンプレートとなるMCCGの構造を反映していることも位相差顕微鏡および共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて構造解析により明らかとなっております。このことにより、人工血管網の構造と内部を流れる液体の流動特性との関係を評価することが可能であることが実証されました。人工血管網の長期間の培養維持に課題が残るものの、人工血管網を構築するための方法論は確立できたと考えております。 研究項目2については、培養液の送液が可能であることを確認することができましたが、蛍光ビーズを含むモデル血液の流動特性の評価については未達成となっております。一方で、本項目の予備実験として、血管内皮細胞を播種する際にMCCGの多管構造内部をどのように細胞懸濁液が流動するのかを動画として記録することに成功しており、すぐにでも人工血管網内部を流れるモデル血液の流動特性評価が行える準備ができております。 当初研究計画に加え、平成27年度はMCCG内部に構築された血管と血管外の組織の間のイオンの選択的透過性を評価する電気計測システムを開発することにも成功しております。このことにより、本研究課題の方法で構築した人工血管網の機能をマルチスケールで評価することが可能となりました。 以上を総合すると、本研究の進捗状況は、項目2においてやや遅れがみられるもののおおむね順調に進展していると言えます。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は項目1で構築した人工血管網の長期間の培養維持を実現するための灌流培養システムの開発に取り組みます。そのために、ポリジメチルシロキサン製のモールドを用いた灌流培養チャンバーを作成します。この灌流培養チャンバー内にMCCGを構築し、さらにMCCG内部に人工血管網を構築します。構築した人工血管網内部に培養液あるいはモデル血液を灌流することによって、人工血管網の長期間維持を実現するとともに、人工血管網内部を流れる液体の流動挙動を評価します。この実験を様々な構造の人工血管網を用いて実施することにより、人工血管網の構造が血管内部を流れるモデル血液の流動挙動に与える影響を明らかにします。 上述の研究項目に加え、人工血管網の酸素や栄養の輸送機能の評価にも取り組みます。そのために項目1で確立した方法に、MCCGのゲル基質内に細胞を埋め込む方法を組み合わせることで、人工血管網の血管外組織に血管平滑筋細胞や肝臓がん由来株化細胞(HepG2)が包埋された三次元再生組織を構築します。この三次元再生組織を一週間から四週間の間にかけて培養維持し、それぞれの組織の血管外組織の細胞の生存率を評価することで、人工血管網の酸素と栄養の輸送特性を評価することを試みます。人工血管網と組織内の細胞の生存率との関係を明らかにすることで、効率的な酸素と栄養の輸送機能を持つ人工血管網の設計原理を解明することに挑戦します。
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Research Products
(15 results)