2016 Fiscal Year Research-status Report
効率的な酸素と栄養の輸送機能を持つ人工血管網の構築技術の開発と設計理論の構築
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15K16330
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
古澤 和也 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (00510017)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 血管 / コラーゲン / 多管構造 / 細動脈 / 血流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では血管網の鋳型となる多管構造を持つコラーゲンゲル(マルチチャネルコラーゲンゲル:MCCG)を用いて人工血管を構築し、この人工血管を流れる培養液や血液の流動特性を解析することにより、効率的な人工血管の設計原理を確立することを目的としている。本年度は前年度に確立したMCCGを用いた血管構造の構築技術によって得られた血管に対して培養液を灌流することに挑戦した。 再現性の良い試料を得るために、シリコン製の流路を作成した。2 mm、4 mm、および8 mmの3つの異なる流路長のシリコン製流路を作成した。3つの流路の高さと幅はそれぞれ1 mmと8 mmとした。それぞれの流路の中にMCCGを構築し、流路の入り口と出口に形成されるコラーゲンゲルの膜をコラゲナーゼ処理により消化除去することで、MCCGの多管構造を解放した。多管構造表面にヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞を播種してMCCGの多管構造を鋳型とする人工血管を構築した。流路長2 mmの型を使った場合、コラゲナーゼ処理によりMCCGがすべて消化されてしまうなどの問題があったため、実際に実験に使用できたのは流路長8 mmの型を使って構築した人工血管のみであった。 構築した人工血管を共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果、細胞が多管構造表面をすべて覆っていないことが判明した。これは、人工血管構築後の培養が静置培養だったため、組織中心部への酸素や栄養の供給が滞り、細胞の増殖が阻害されたためと考えられる。この問題を解決するために、人工血管に培養液を灌流する培養システムの構築に挑戦したが、人工血管の強度が脆弱なため培養液の還流によって試料が崩壊するなどの問題が発生した。そこで、人工血管の力学的物性を強化するために、血管内皮平滑筋細胞をMCCGのゲル基質中に埋め込んで培養したところ、動脈の中膜とよく似た構造が形成されることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請書の計画では本年度までに人工血管網の構造が血管内を流れる培養液や血液の流動特性に与える影響の調査を開始することになっていた。しかしながら、MCCGの多管構造表面が血管内皮細胞で完全に覆われないことや、灌流培養を実現するために必要な強度の不足などの様々な問題が発生したために、研究に遅れが見られている。 一方で、申請書の計画にもあった血管内皮平滑筋細胞(SMC)をMCCGのゲル基質中で培養することにより動脈の中膜様の構造を構築することに成功した。形成される組織の力学的性質などの特性解析はまだ進んでいないが、SMCがMCCGのゲル基質領域の再構築(リモデリング)することによる組織の力学的性質の改善が期待される。この研究項目が達成されたことで、MCCGのゲル基質領域に中膜様の構造を構築し、多管構造表面に血管内皮細胞を播種することで細動脈様の構造をMCCG内部に再現することが可能となった。 以上より、研究全体の進捗はやや遅れているものの、本研究の目的を達成するために必要な要素技術の一部は達成されつつある。したがって、本研究課題の進捗状況は区分(3)やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
真っ先に取り組むべき課題は、SMCをMCCGのゲル基質中に包埋し中膜様構造を構築した後で、多管構造表面に血管内皮細胞を播種することで細動脈構造をMCCG内部に構築し、培養液を血管内に灌流することが可能な血管となっているかどうかを評価することである。もし、この方法でも灌流培養のために十分な力学特性を再現することができなかった場合には、MCCG自体の力学特性を強化する方法を採用する。研究代表者は過去にMCCGの弾性率(ヤング率)を天然の化学架橋剤ゲニピンを用いて向上させることができることを示しており、この方法が本研究課題の課題の改善のために利用できる。もう一つの方法として、よりコラーゲン基質のリモデリング作用が強い繊維芽細胞をSMCとともに、MCCGのゲル基質中で共培養し、中膜だけなく外膜様の構造も再現することで、より強靭な人工血管の構築を達成する方法を計画している。繊維芽細胞の共培養は、ゲル基質領域への血管内皮細胞の浸潤も同時に誘導することが期待されるため、前述の方法と平行して遂行する予定である。灌流培養に適した人工血管の構築が実現できたら、これを用いて人工血管を流れる培養液や血液の流動特性の解析に着手する。まずは、ポリスチレンビーズを含む培養液(モデル血液)を人工血管に流通し、流れが滞る点や乱流が発生する点、血管壁に損傷が生じる点などを動画撮影と観察により調査する。それぞれの発生頻度を段階別に評価する。さらに、様々な構造の人工血管を構築し、これを用いてモデル血液の流動特性を同様に解析することで、人工血管の構造がモデル血液の流動特性に与える影響を解明する。このことにより、どのような血管構造が効率的なモデル血液の流動を実現し、逆にどのような血管構造がモデル血液の流動異常を生じるのかを明らかにする。研究の進捗が良好に進んだ場合には、実際の血液を用いた同様の研究も遂行する。
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Research Products
(14 results)