2016 Fiscal Year Research-status Report
麻痺肢集中使用法に関する作用メカニズムの解明と臨床応用への展開
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15K16361
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
石田 章真 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (20632607)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リハビリテーション / 皮質赤核路 / 赤核 / 網様体 / 運動野 / 上肢機能 / 脳出血 |
Outline of Annual Research Achievements |
損傷脳における神経回路の再編成に対し、集中的なリハビリテーションは再編を促進し、それにより運動機能回復を増進すると考えられている。我々はこれまでに、内包出血モデルラットを用いた検討を行い、麻痺肢の集中使用により出血同側の皮質赤核路が増加し、同経路が集中使用による運動機能回復と因果関係を有していることを示した (Ishida et al., J Neurosci. 2016)。本年度はこれを受け、皮質赤核路の選択的遮断を様々なタイミングで行い、運動機能回復へ及ぼす影響を確認した。 方法として、ラットの赤核にレンチウィルスベクター (NeuRet-TRE-EGFP.eTeNT) を、運動野にアデノ随伴ウイルスベクター (AAV1-CaMKII-rtTAV16) を注入し、選択的に遮断できるようにした。その後、内包出血を生じさせ、麻痺肢の集中使用を行わせた。この実験系において、(1) 集中使用実施中~、(2) 集中使用実施直後~ のタイミングで皮質赤核路を選択的に遮断し、運動機能への影響を確認した。 その結果、(1) 集中使用実施中に皮質赤核路を遮断した場合は、運動機能は問題なく回復した。それに対し (2) 集中使用実施直後に皮質赤核路を遮断すると、一旦回復した運動機能が再度悪化することが示された。加えて、 (2) では皮質赤核路が増加していたのに対し、(1) では皮質赤核路の増加は認めず、代わりに皮質網様体路の増加が認められた。 以上の結果から、内包出血後の麻痺肢集中使用において、皮質赤核路は早期より運動機能回復に重要な役割を果たすことが示された。加えて、皮質赤核路が遮断されている場合は速やかに他の経路(皮質網様体路など)を介した代償が起こりうる事が示された。これらの知見は、皮質脊髄路損傷時には脳幹運動核を介したリレーが有用な代償経路になることを示すものであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、麻痺肢への集中的なリハビリテーションによる中枢神経系の可塑的変化と運動機能回復の間の因果関係の証明である。これまでに、(1) 内包出血後の集中リハビリテーションによる皮質赤核路の増加、(2) 内包出血後の集中リハビリテーションによる運動機能回復において、皮質赤核路と機能回復が因果関係を有すること、を証明しており、国際誌に投稿し掲載された (Journal of Neuroscience誌, 36(2):455-67. 2016)。また、全国紙を含む46紙上にて紹介され、広く内容を周知できた。 それに加え現在は、(3) 皮質赤核路がリハビリテーション後早期から機能回復に関わること、(4) 皮質赤核路をブロックすると、速やかに他の経路の変化が生じること などを確認しており、皮質赤核路とリハビリテーションの関係性において更なる知見を得ることができた。今後更なる検討を重ね、リハビリテーションの作用機序の解明へと繋がる成果を導き、国際誌への投稿を行う所存である。 また、集中リハビリテーションの作用とNMDA型受容体との関係性についても追加で解析を行った。引き続き検討数を増加し、本年度中に成果をまとめ国際誌への投稿を行う所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては以下の展開を予定している。 1. 麻痺肢の集中リハビリテーションにおける、皮質-脳幹経路の果たす役割の解明 これまでの検討により、(1) 内包出血後の集中リハビリテーションにより、皮質赤核路が増加する、(2) 内包出血後の集中リハビリテーションにおいては、運動機能の回復と皮質赤核路の変化とが因果関係を有する、(3) 皮質赤核路をブロックした状態で集中リハビリテーションを行うと、皮質赤核路の代わりに皮質網様体路が増加する、といった成果を得ている。 今後は、皮質赤核路と皮質網様体路の果たす役割の違いや代償様式の違いに焦点を当てて解析を行う予定である。具体的には、皮質赤核路と皮質網様体路を同時或いは連続的にブロックし、それにより運動機能がどのように変化するか、どのように各経路の変化が生じるかを解析することを考えている。加えて、これらの経路による代償がどのような分子メカニズムによって成されるかを、分子生物学的手法や生化学的手法を交えて確認していく所存である。 2. 皮質-脳幹経路の賦活化によるリハビリテーション効果の増強 これまでの成果により、皮質赤核路がリハビリテーションの作用において因果関係を有する回路であることが証明された。したがって、同経路の賦活化を行いリハビリテーションを行うことでリハビリテーションの作用が増強される可能性がある。具体的には、ウィルスベクターを用いて興奮性の人工レセプターを皮質赤核路に発現させるDREADD法や、同じくウィルスベクターを用いてチャネルロドプシンを発現させる方法などを考案している。また、集中リハビリテーションによりNMDA型受容体が増加しその効果に関わることも見出しているため、NMDA型受容体の作動薬を投与する方法も考えている。
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Research Products
(10 results)