2016 Fiscal Year Research-status Report
第一次運動野損傷後の運動機能回復と共に生じる大規模な神経回路再編成
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15K16365
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Research Institution | Tsukuba International University |
Principal Investigator |
山本 竜也 つくば国際大学, 医療保健学部, 助教 (60724812)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経回路 / マカクサル / 脳の可塑性 / 第一次運動野 / 運動前野 / 損傷 / 回復 / 麻痺 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに申請者は、第一次運動野(M1)損傷後に腹側運動前野(PMv)で生じる機能代償がどのような神経回路編成により制御されているのかを検証するために、解剖学的トレーサー(BDA)を用いてPMvニューロンの投射先を健常マカクサルと運動機能回復後のM1損傷マカクサルとの間で比較したところ、前者よりも後者の方が赤核(大細胞層)や小脳核(特に室頂核)へと向かうPMvニューロン数(button数)が有意に高いことを国際学会などで報告してきた(Yamamoto et al, 2017, FENS etc.)。これらの結果は、赤核や小脳核へと投射するPMv経路の増加がM1損傷後の運動機能回復に寄与することを示唆する。 本年度では、M1損傷後にPMvからの投射を受ける室頂核ニューロンの性質を検証するために、小脳及び小脳核の区分に関与するマーカー分子(aldolase C等)を用いた免疫染色実験を行った。その結果、BDA陽性軸索終末は主に室頂核の中央から尾側の領域に観察され、このような領域ではaldolase C の発現が弱い、または認められなかった。aldolase C 陰性領域は体性感覚情報の処理に関与すると考えられており、本研究成果は、小脳核へと投射するPMv経路の増加がM1損傷後の運動機能回復に寄与するという上記仮説を支持するものである。 また、昨年度には損傷同側半球のみを解析対象としていたが、本年度では損傷対側半球も対象領域に新たに加え、脳全体を対象とした網羅的な検証を行った。その結果、損傷同側半球のみならず、損傷対側半球においても健常マカクサルとM1損傷マカクサルとの間で異なるPMv投射領域が存在していた。本結果は、局所的な損傷の後にも関わらず、脳は左右半球を跨ぐ程の大規模な神経回路再編成を引き起こすことが可能であることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度には、M1損傷後にPMvニューロンが新たに投射するニューロンの性質を検証するために、小脳及び小脳核の区分に関与するマーカー分子(aldolase C等)とPMvに注入された解剖学的トレーサー(BDA)及びニューロンマーカー分子(Neuronal nuclear: NeuN)との蛍光三重染色実験を研究計画では予定していた。しかし、蛍光染色法では小脳核の区分が不明瞭であったため、酵素抗体法を用いた明視野観察実験に変更した。その結果、上記の通り、aldolase C 陰性領域へのBDA投射を確認することが出来た。本成果は、平成29年度の国内学会(日本神経科学学会)において報告する予定である。また、健常マカクサル(n=1)とM1損傷マカクサル(n=1)の損傷対側半球切片を作製し、BDAを可視化する段階まで完了した。当初の平成28年度研究計画の大半を達成できているため、本研究計画は『おおむね順調に進展している』と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、M1損傷後にPMvから赤核(大細胞層)や小脳核(特に、室頂核のaldolase C陰性領域)へと直接投射する経路が増加することを見出した。平成29年度には、これら研究成果の論文化を進めるために、BDA注入領域およびM1損傷領域の範囲を、立体解析システムを用いて定量的に解析する。また、BDA可視化の段階まで到達している損傷同側および対側の大脳皮質においても、小脳核や赤核と同様に、健常マカクサルと運動機能回復後のM1損傷マカクサルとの間でBDA陽性軸索数の定量比較解析を行う。
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Causes of Carryover |
基本的には予定通り使用したが、残額 0 円に合わせることは出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品(スライドガラスなど)の購入に当てる予定である。
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