2015 Fiscal Year Research-status Report
歩行のイメージ化が神経機構と運動学習に与える影響の解明
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15K16384
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Research Institution | Kawasaki University of Medical Welfare |
Principal Investigator |
伊藤 智崇 川崎医療福祉大学, 医療技術学部, 講師 (90587297)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 歩行観察 / 歩行イメージ / メンタルプラクティス / 宣言的知識 / 手続き的知識 / 皮質脊髄路 / 経頭蓋磁気刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動観察治療の神経基盤となるミラーニューロンシステムの活動を捉える一つの手法として経頭蓋磁気刺激が広く用いられている。先行研究では、上肢の運動観察時には実際の筋活動パターンと一致した形で皮質脊髄路の興奮性変化が認められているが、歩行観察時には同様の変化が認められていない。また、歩行観察に関する報告も希少である。そこで本年度は、歩行観察中の運動皮質の活動パターンや活動特性についてより詳細な知見を得ることを目的に経頭蓋磁気刺激を用いて検討を行った。若年健常者36名を対象に、歩行観察中の前脛骨筋とヒラメ筋の運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)を測定した。観察方法の違いが皮質脊髄路の興奮性変化に与える影響を調べた結果、単に観察のみを行った場合と同様に模倣を前提に歩行観察を行った場合にも前脛骨筋とヒラメ筋のMEPは安静時と比較して一定の増加を示した。また、前脛骨筋のMEP変化とヒラメ筋のMEP変化との間には正の相関が認められ、実際の歩行中の筋活動パターンとは異なる興奮性変化を示すことが明らかとなった。観察方法の違いによるMEPの差は認められなかった。このことから歩行観察中の運動皮質は、動作の観察と実行とをマッチングさせる機能を有していない可能性が示された。さらに、歩行に関する運動学的な知識の有無が皮質脊髄路の興奮性変化に与える影響を調べた結果、やはり歩行中の筋活動パターンに一致したMEPの変化は、知識の有無に関わらず認められなかった。この歩行観察中のMEPの変化は、先行研究の結果を支持するものとなった。しかしながら本研究では、ヒラメ筋の皮質脊髄路の興奮性は、歩行に関する知識を有することでより増大するという興味深い結果を得た。本研究の結果は、2015年度の臨床神経生理学会にて報告を行い、現在は国際誌に投稿するための準備を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歩行を観察している観察者の運動皮質の興奮性は、歩行に関する宣言的知識の有無により異なる変化を示すことが実証された。また、歩行観察中の運動皮質の活動パターンや活動特性についても一定の知見や見解が得られるまで研究を押し進めることができた。本年度は当初の計画通りに研究を実施できたが、歩行観察時の神経機構を探る中で新たな研究課題も浮き彫りになってきており、未解決部分が残されている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
より詳細なデータの収集と円滑な研究の進行を可能にするため、本年度中に磁気刺激装置の刺激トリガシステムの改良を行った。今後はこのシステムを利用して、歩行観察中の運動皮質の活動特性についてさらに解明していく。加えて、歩行に関する知識の教示により歩行のイメージ化にどのような影響を与えるのか、脳内の神経機構の変化を実験的に検証していく。
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Causes of Carryover |
磁気刺激装置の刺激トリガシステム改良費を若干抑えることができたために生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の研究成果をまとめた論文の英文校正料の一部として使用する計画である。
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