2016 Fiscal Year Research-status Report
悲観的認知方略の肯定的側面―競技場面における防衛的悲観主義―
Project/Area Number |
15K16481
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Research Institution | National Agency for the Advancement of Sports and Health |
Principal Investigator |
奥野 真由 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター, スポーツ科学部, 契約研究員 (00633215)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アスリート / 心理サポート / 実力発揮 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はアスリートや競技チームを対象とした心理サポート事例が発表される学会や研究会に参加した。また、研究代表者も自らが担当する心理サポート事例を発表し、スーパーバイザーおよび有識者との意見交換を行った。これまでの調査より、アスリートは「競技場面では楽観的思考が良い」という囚われもあり、悲観的認知から無理に目を背けたり修正しようとする様子が見受けられた。しかしその反面、「失敗場面を想定することで万全の準備ができる」などその有用性を感じていることが示唆された。それを踏まえ心理サポートでは、競技場面における防衛的悲観主義の理論も取り入れ実践した。具体例として、メンタルトレーニング講習会ではメンタルトレーニングの技法に加え、自分自身にあった認知的方略を用いることの肯定的な作用について情報提供を含め講習を実施した。また、アスリートとの一対一の個別カウンセリングにおいても、サポート担当者(研究代表者)がアスリートの認知的方略の個性を尊重するよう心掛け、心理サポートを実施した。その他にも、指導者やチームスタッフに対し、認知的方略には個性があり、ポジティグシンキングを強調する画一的な指導ではなく、各アスリートが自分自身ににあった認知方略を用いることが実力発揮には重要であることについての情報提供を行った。上記の心理サポートを実践し、その後のアスリートにどういった点で役立ったかを追跡調査し、発表した。心理サポートに携わっている研究者や、指導者、スタッフからの指摘を受け、更に心理サポートの内容も改善していく予定である。本研究の目的である、競技場面での悲観的認知の有用性を検討するため、アスリートへのメンタルトレーニング講習や個別の心理サポートに認知的方略の側面を取り入れた実践は、研究を進行する上での示唆を得ることができ、有意義であったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
悲観的認知方略や防衛的悲観主義の競技現場での応用について、競技場面での心理サポートでの実践、学会発表を実施した。しかし、平成28年度は、防衛的悲観主義の認知的方略を用いることで、実力発揮へと結びつけることができているアスリートに対するインタビュー調査を実施することができなかった。本研究では、防衛的悲観主義の観点を用いて、認知的方略を考慮したアスリートとチームへの心理サポート体制のあり方について検討することを目的に、次の3点について明らかにすることとしている。①競技場面で悲観的思考が肯定的な作用をもたらすまでの実際の過程を明らかにする。②競技場面に特化した楽観・悲観性尺度を作成する。③防衛的悲観主義の認知的方略に対する指導者の認識とチームに及ぼす影響を明らかにする。しかし、これまでの調査および、心理サポートの実践から、競技場面での防衛的悲観主義では、チームやチームメイトなど悲観的認知が周囲に与える影響への配慮(「悲観的な人がいるとチームの雰囲気を暗くしてしまう」という考えなど)や、周囲から求められるアスリートとしての在り方への適応(「トップアスリートは常に高い自信を持っているはずである」というアスリート像など)といった、競技場面特有の事項を考慮する必要が不可欠であると推察された。そこで、防衛的悲観主義がアスリートの実力発揮に及ぼす影響として、指導者への調査(③)を先に実施することとする。楽観・悲観性尺度作成(②)は、指導者のインタビュー結果を踏まえて行う。検討点の順序を変更させたことも含め、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、指導者を対象に調査を実施する。悲観的認知が競技場面ではどのように捉えられているか、客観的な視点からのデータを収集する。調査方法は、インタビューを採用し、質問項目は「悲観的な認知方略を用いているアスリートに対する印象と周囲への影響」「自分自身(インタビュー対象者)の認知的方略の特徴」を軸とする。さらに、質的分析を用いて競技場面における防衛的悲観主義の認知的方略について整理する。その結果をもとに、アスリートが自分自身に合った心理的準備の方法や心理的戦略を用いて競技に挑めるよう、心理サポート担当者の関わり方について検討を行う。
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Causes of Carryover |
悲観的認知方略や防衛的悲観主義の競技現場での応用について、競技場面の心理サポート実践を優先した。そのため、防衛的悲観主義の認知的方略を用いることで、実力発揮へと結びつけることができているアスリートに対するインタビュー調査を実施することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度にインタビュー調査を実施する。インタビュー実施場所は研究協力者の都合を優先するため、旅費として使用する。また、研究協力者への謝金、インタビューデータの質的分析に必要な人件費・謝金として使用する。
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